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俺は、「もう止めてくれ!」と仁美に懇願した。
「たのむ、止めてくれ! ………先輩が、先輩が、死んじまう……!」
俺はいつの間にか、泣きじゃくっていた。こんな、こんな……!
ついさっき和美さんの死を目の当たりにして。信じられない話を聞かされて。挙句の果てに、先輩まで……!
もう何度、繰り返し床に叩きつけられたろう。先輩の身体はぐったりとしたまま、もう一度引き起こさた。先輩の頭が、力なく、「がくん」と下を向いた。
「先輩!」
俺は先輩に駆け寄った。
「先輩、先輩……」
先輩の額から、鼻から、口から、溢れるように、血が流れ落ちている。俺は着ていたシャツを破き、先輩の顔を覆った。俺の手が、血でたちまち赤く染まる。
ひゅう……ひゅう……
俺の手に、先輩の口からかすかに漏れて来る、苦し気な吐息がかかった。
……よかった。まだ、息はある……!
「ふふ、さすがにしぶといな。まだ生きてやがるか……」
“仁美”はにやにやと笑っている。
「なぜだ? なぜ、こんなことを……」
俺は、手にベットリと付いた先輩の血を拭いながら、叫んだ。
仁美は対照的に、尚もにやつきながら話し出した。
「……教えてやろう。私は、小さい頃からずっと“和美”と比べられていた。優しく、まっすぐで、頭の良い和美と。私と和美は、顔だけは似ていたが、まったく正反対の人間だった。私は、あいつが憎くてしょうがなかったんだ!」
俺は黙って、仁美の“独白”を聞いていた。
「だから、わたしはあいつの元を離れた。もう、あいつと比べられる人生なんぞまっぴらだ! 私は、私自身として、認めてもらいたかった……」
「ところが、行方をくらました私を探しているうち。あいつはなんと、結婚相手を見つけてしまった。裏目に出てしまった。私のとった行動が、あいつをまた幸せにしてしまった……!」
仁美は憎々しげに、唇を「ぎゅっ」と噛みしめた。
「それを知った私は、心底絶望し、自らの命を絶った。……しかし、魂は死に切れなかった。あいつに、私をどん底に追いつめた和美に復讐するまで、私は死ぬことは出来ないのだ……!」
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