夜に、叫ぶ。

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「そして私は、和美の身体を乗っ取ってやろうと考えた。あいつの幸せを 奪い取り、そして粉々にしてやるために……!」  ”仁美”の独白を聞き終え。俺は、静かに言った。 「だが、先輩には見破られてしまったんだな」  仁美が、きっ! とこちらを睨んだ。 「そうさ! そいつは、和美と私が入れ替わったのを見逃さなかった。それだけ、和美は愛されていたんだ。その愛こそ、私がずっと求めていたものだったのに……!」 「それで、先輩に和美さんを殺させ……その上で、先輩までも……」 「そうだ!」  俺は口元をゆがめ、言い放った。 「それが、なんになるんだ?」  仁美は一瞬ギョッとしたが、すぐに怒りに満ちた顔で叫んだ。 「な、『なんになる』だと?!きさまに、きさまに私の気持ちがわかってたまるか!」  突然、後頭部を強く押しつけられたように、俺の頭は床めがけて勢いよく降下した。  がつんっ……!  ……俺の鼻が、床に激突し、ばきっと折れた。 「ぐうっ……!」  仁美は更に逆上していた。 「ほんの小さい頃から、和美を見習いなさい、和美のようになりなさいと、言われ続けてきた! その悔しさが、お前にわかるのか!!」  俺は血が滴る鼻を押さえ、痛みをこらえながら言い返した。 「それが、なんだっていうんだ。全部、お前の自己満足じゃないか……!」  今度は、急に俺の身体が、床の上に引っ張り上げられた。と、思った瞬間、再び床へと叩きつけられた。     ぐちゃっ……!  身体のどこかで、何が潰れたような、嫌な音がした。もう、まともに目を開ける事もできない……。 「自己満足で何が悪い! 私は、私を苦しめ、私の邪魔をした奴らを、みんな葬ってやるんだ! それが、私の復讐だ!!」  もう一度身体を起こされ、また床へと叩きつけられる。もう一度、そしてまたもう一度……俺は、徐々に意識が遠くなっていった。 「お前に何がわかる! お前に……!」  仁美は更に叫び続けた。その度に俺は、何度も、何度も叩きつけられた。遠ざかる意識の中、仁美が、叫びながら泣いているのがわかった。仁美も、わかってるんだ。こんな事をしても、なんにもならない。すべてムダだって事が……。  しかし、やり始めた以上、やり遂げるしかない。  何十回目かに床に叩きつけられた時、今までの人生がぐるぐると、頭の中を駆け巡り始めた。  ああ、これが俗に言う、「走馬灯のように」って奴か……。  それが、俺の最後の意識だった。  仁美はまだ、泣きじゃくりながら、この世界への恨み言を一人、叫び続けていた……。     ―了― (Bad ending-#20)          
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