羽島×菜乃香

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 羽島さんはまた窓の外へ視線を戻し、ちょっと物憂げな感じで微笑む。私は、この10年のことを思い出しながら、ゆっくりとコーヒーをひと口飲んだ。 『私……強くなりたかったの』 『強く?』 『うん。そのためには、演技力が一番大事なんだって思ってた。傷付いていない演技、動じてない演技、自分はかわいそうじゃないって演技。きっと、カッチンとヤゴの前でさえそうしてた。まぁ、ふたりとも気付いてたと思うけど』  頬杖をといて背もたれに体を預けた羽島さん。私の話を聞きながら、『うん』と優しい声で頷く。 『そういうふりが自己暗示にもなったし、実際それで都合がよかったり上手く乗り越えられたりしたこともある。きっかけは失恋だったのかもしれないけど、恋愛に限らず何でも』  仕事でも人付き合いでもそうだった。強い自分を演じることで、問題や衝突があってもいくぶん冷静でいられたし、くじけたり泣いたりすることもなかった。
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