羽島×菜乃香

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 羽島さんは片眉を上げてそう言うと、髪から手を離す。こういうふうに、羽島さんは高校生の時の思い出をなぞるようなちょっかいを出しては、そのギャップを楽しんでいる。悪趣味だな、と思いながらも、私も仕方なく乗ってあげることにした。 「一応聞きますけど、どうしてほしいですか?」 「カナの気分次第で。どうせ、これからいろんな髪型のカナが見られるだろうし」  さらりとそんなことを言ってのけるものだから、 「これからもずっと一緒にいるつもりですか?」  と嫌味を返してみた。  すると、羽島さんはポケットから何かを取り出し、 「いないつもり?」  と言って、それをテーブルの真ん中に置く。10センチ四方くらいだろうか、上品な光沢のある紺色の立方体だ。 「なにこれ」 「指輪。いらない?」  私は文字どおり目を丸くして、その立方体の箱と羽島さんの目を交互に見た。そして、驚きの中に、せり上がってくる熱いなにかを感じはじめる。  もしかして、これ……。  そう確信したものの、照れと涙の予兆を誤魔化すように、俯いて減らず口をたたいてしまう。 「い……いる、って言わせたいんですか?」 「うわ、あいかわらずの切り返しだな」
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