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微笑んでそう言うと、辻森さんは先生からパッと手を離し、「あ、そういやそうだな」と主役のふたりへ目をやる。
「じゃ、また後で」
そして、そちらへ早足で向かっていった。
「こちらに気を遣わせない、いい上司さんね。優しくてスマートだわ」
先生が辻森さんのうしろ姿を見ながら、くすりと笑った。
「うーん、まぁ、そうだね。大人な対応するし、先生よりも年上だし?」
「なに? その言い方」
「お察しのとおり、嫉妬です」
先生は、ふっと噴きだしたあとで、ほんの少し首をかしげる。
「もう結婚して、それこそ関係性も変わったのに?」
「俺との関係なんて、結婚してからあんまり変わってないじゃん。俺は先生のことが可愛いし、このまま仲良しでしょ?」
てっきり喜んでくれるか、“なにそれ”とか言って照れるかと思った。でも、先生は、足元のライトを見つめ、
「……このまま、か」
と薄い微笑みのままでつぶやいた。
「なに?」
「……ううん。あ、ちょっとお手洗い行ってくる。先に食べてて」
なんだろう……先生がああいう表情をするときには、いつも心に何かため込んでいるときだ。
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