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「そうですね。そうだといいです」
「まぁ、こんなのは僕たちの都合のいい解釈だな」
「それでも、四季さんはそうだと思いたいです」
「ワンッ!」
「お、ライラ。今の話、聞いてただろ? 四季には言うなよ?」
「クゥーン」
ライラは「なんで?」と言いたげな顔をしていたけど、私からもお願いしたい。
今ここでした話は、四季さんには聞かれたくないと思った。
少なくとも今は、私たちの自分勝手なイメージを、四季さんにあてはめていたい。
実際のところ四季さんが、どういう気持ちでいるか、どういう過去があったのかはわからない。
いつか四季さんの本当の気持ちが聞けるときがあれば、そのときは話してもいいと思う。
だけど、そんな機会はしばらくないだろう。
そのときに私が、この会話を覚えていられるかはわからない。
だけど、このライラックの甘い香りを感じたときに、ふと思い出せればいいと思った。
「倉じい、ライラの小屋の掃除、終わったよ」
「ワンッ、ワンッ」
「おぉ、終わったか。どれ、きれいになったか」
陸くんから声がかかって、この話はいい感じに結論が出ないまま収束した。
一人になった私は、もう少しこの香りを楽しんでいたかったから、しばらくこの場から動かなかった。
少しして陸くんが家に入るよと声をかけてくれて、私も一緒に中に入った。
その頃には大掃除はほとんど終わっていて、きれいになった勿忘荘を見渡して、私の気持ちはスッキリとしたものになった。
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