陽陛下と天帝の二の剣

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公務が終わった少しの間に、時折陽来は陽奏を傍に置いて、迅をぽろりとつま弾きながらこんなことを言った。 「お前は良い子だよ」 「なんだよ、お前より長く生きてらあ」 「うん……でもなあ。俺には小さな子に見える」 「それはおいらの見てくれの話だろう」 「そうではないよ。まだ父や母に甘えたくて仕方のない子供さ、少なくとも……俺はそうやってこれからお前に接したい。どうだ、俺を父と呼び、紅花を母と呼んでみるか」 「あんたを、父と?」 「そうだ」 「ふうん……」 「なんだその生返事は」 「おいら、よく解んないんだもの。おいらを作ったのは天帝だけどさ……。親ってなんなのか。子ってなんなのか」 「もしかしたらな……」 「うん」 「天帝は、お前を俺の元に遣わしたのは、お前に親子とはどんなものかというのを教えたかったのかもしれんなあ」 「そうなのかな。おいらはてっきり、おいらは未熟で出来損ないだから修行に出したんだと思ったけど……」 「お前は出来損ないじゃないよ……よく、出来た子だ……」 そう言って陽来が優しく笑う。 髪は未だに白いままであったが、出会った時の悲壮な顔はもうしておらず、穏やかで優しく、そして勇ましい男の顔だった。 (父かあ……。おいらにおとうちゃん、おかあちゃんが出来るのかあ。よくわかんないけど……なんか……悪い気はしないな) 陽来には決してそんなことは言わないけれど。 二年後を一番楽しみにしているのは自分かも知れないと陽奏は思っていた。 そして。 二年が経った。 蓮国の民は陽来が睡蓮であったことを知っている。 だが、それがなんだと言うのか。 奪われた妻を取り返し、無残に殺された息子達の仇を取り。しかも天帝に直に会い、天帝の剣まで授かった男なのだ。 それに二年の間に蓮の国はぐん、と住みやすくなった。 彼こそは我らの王だ、我らは陽来こそが王だと認める。それが蓮の国の民の総意であった。 二年の時を経て今日、王宮で戴冠式を行い真実、蓮の国の王になる陽来を一目見ようと多くの民が蓮の王宮につめかけた。 陽来が戴冠式をするのは、民衆がよく見えるように王宮の中二階にある、空中庭園のような場所である。王宮の広場より、よく見えるのだ。そしてそこで陽来は、戴冠式の前に妃として、迎え入れる紅花と会う事になっていた。きらびやかな衣装に身をつつんだ陽来がそわそわ、と紅花が来るのを待つ。それを、正装した陽奏が笑った。 「落ち着きがねえなア、もっとしゃんとしろよ、王様」 「うるさい、これが落ち着いていられるか。ああ……奏よ……俺はもしかしたら紅花を一目見たら泣いてしまうかもしれない」 「げえ……、まだ泣き虫が治ってねえのかよ」 「ああ。ああ。それは一生治らんよ」 そう言って笑っているうちに、ふと、陽来の視界の端に見知った顔が、映った。 あ、と陽来がそちらを見ると、その顔も、あ。と口を開けたのが解る。 その顔は。とても美しかった。
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