江家の嫁

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紅花は憎い男であるのに、その末路を想像して思わず手を伸ばした。元々は陽来の無二の親友である。長い付き合いでもあった。憎くもあるが、元は深い親交があった。 だが。 その手は見知らぬ男の手によって止められた。驚いて手の持ち主を見上げると間抜けそうな、田舎臭い男……の顔に悲しみの色が滲んでいた。男は首を振りながら言った。 「やめときなよ。あんた、紅花さんだろ?」 「あ、貴方は……」 「おいらは二の剣さ」 「に、二の……?」 「そんなことはどうでもいい。さっさと荷物をまとめてここから出るんだ。ここは、いけない。いちゃいけないんだ」 「どうして……?」 「禍々(まがまが)しくなるから」 そう言い切った。 「禍々しい……?」 「うん……。いいかい、これは秘密だけど。あんただから言うけど。……江滝が抱えているのは陽来の旦那だ」 「……えっ、」 「駄目だよ、行かないで。行ったら駄目だ。陽さんはあんたにだけは今の自分を見られたくないんだ」 「でも、会いたい」 「陽さんも言っていたよ。何度も何度もあんたの事を言っていた。あんたをこの世で一番愛している。いますぐにでも飛んで行って会いたいと。あんたを抱きしめたいと。あんたに迅を弾いてどれだけあんたを愛しているか教えてやりたいと。だけど、四肢がなく、江滝への復讐を誓った今のあの人を見たらきっとあんたは……陽さんを嫌いになると思うよ。陽さんはね、あんたが三年間天帝に祈ったおかげで天帝に会えたんだ。それだけど、天帝はおいらに陽さんの願いを叶えるように言った。陽さんの願いは手足が生える事、そして江滝への復讐を果たしてあんたに会う事。それだけが、今のあの人を支えているんだ。どうか、見ないでやってほしい。大人しく、便りを待ってくれないか」 「そんな……」 いますぐにでも会いたい。 どんなに姿形が変わっても、紅花は陽来を愛せると思っている。 けれど、痛い程に手を掴んで離す意思のない二の剣の目を見て、紅花は目を閉じてため息をついた。 「解ったわ……私は……あの人を信じている、愛している……だから、陽来がそう言うのならば、私は待ちます」
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