江家の嫁

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そう言ってまるで恋人のように睡蓮と男は睦み合った。それに遅れて金持ちが自分の蔵で一番高価でかけがえのない物を、貴族が他の国から捕まえてきた希少な鳥の番を、強欲な金貸しが自分の屋敷の一部を、兵士の一人が自分の剣を、誇らしげに胸に抱いて並び始める。そしてそれを大きな体の田舎臭い男が手を差し出してさあ、見せておくれと言うのだ。男から預かった貢ぎ物を見せて女が良好(よし)と言えばその男が五十人は入れる霊廟へと次の男を迎えいれる。 常に霊廟は生臭く、喘ぎ声と男のうめき声、そして彼らは徐々に増えていく。自分が一番大事な物、と思う物を胸に抱いて。 その贈り物は無造作に中庭に積み重ねられている。睡蓮はどうやら贈り物には興味がない。ただ、大事な物を奪いたい。それだけだった。 睡蓮を抱いた男達はその晩からしばらく夢を見た。 美しい睡蓮が自分にもっと、もっと、とねだる夢だ。 だからまた列に並ぶけれど、一度睡蓮を抱いた男は二度と抱かせてもらえなかった。 「まるで、悪い酒を飲んだ後のように情事の思いが後を引く。ああ……あの女をもう一度、抱きたい」 そう、決まって胸を掻きむしりながら言うのだった。 夜になると睡蓮は必ず江滝と睦み合う。 精を吸われすぎて痩せた男の胸に頭を預けてもたれかかる。 妖艶に笑い、果物などを剥いてもらっては口に含ませてもらい、満足気だ。 「ねえ、あなた……もう少しよ、もう少しで手足が生えるわ」 「そうか……それは喜ばしいな……」 「あなた……笛の音を聞かせて……」 「ああ……」 とろん、と呆けている江滝が胸元から笛を取り出してびょうびょう、と吹くと睡蓮はうっとりと微笑む。 「相変わらず、良い音……」 そうしていると、良い夫婦に見える。 なにもしなくとも、充足しているように感じる。 そんなものは、幻想ではあるが。 そんないつものある晩、どすどすと荒い足音が聞こえて江夫妻の寝室の扉が乱暴に開かれた。 対面座位で繋がっていた二人を乱入者は醜い声で罵倒した。 「ああ、臭い臭い。生臭い匂いでこの屋敷は充満している!いつから誇り高い江家は娼館になったのだい、滝!」 そう言って怒鳴るのは江滝の母の江玉であった。彼女は中庭にある沢山の貢ぎ物を盗もうとして二の剣に叱られ、金もつき、自分の食べる物が粗末になってしまったと嘆いて金の無心に来たのだった。傍らには骨と皮の江蝉がいるが、彼はいつものごとく、呆けている。 そんな母の思惑を知ってか知らずか。江滝はちら、と母を見るだけで、構わずに睡蓮と睦み合った。腰を揺らし続ける江滝に腹が立ち、「江滝!」と怒鳴って江玉は夫妻の寝室に入るなり、睡蓮の長い髪を掴み、ぐいっと引っ張った。 「こんな女に引っかかって!母さんはお前を誇りに思っていたのに!今では王宮にも行かず、昼間は寝て暮らし、夜になれば女とお楽しみとはずいぶんな暮らしだ!母さんは美味い物が食いたいのに、金もくれずにお前は女といつもいつも、交わって!汚らわしい!こんな、気持ちの悪い女、捨ててしまえ、殺してしまえ!」
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