狂宴

1/3
前へ
/83ページ
次へ

狂宴

それから。 二か月の間、男達の列は続いた。 誰もが女を抱くために正装し、自分の大事な物を持って、江家に入ったが。なぜか江家は日に日に手入れがされなくなり、江滝の両親は姿を消し、江滝は昼間は寝て暮らしているので誰も見なかった。 草、生え。苔、むす。 まるであばら家である。 ただ、中庭にある天帝の霊廟の中で女が男達を待ち構えて、睦み合う。 「あはははは」 愉快に彼女は笑っている。とても楽しそうに男に犯される。 ある日。急に睡蓮が二の剣を呼んだ。二の剣が睡蓮の元へ行くと何事かを囁いた。そこで二の剣が頷いて列をなしていた男達にこう告げた。 「どうもありがとうございました。これで彼女の願いが叶います。どうぞ、みなさんお引き取り下さいませ」 「なんだと、俺がどこから来たのかしっているのか」 「そう言われましても。今で九百九十九人目なのです」 「ならば一人、残っているではないか」 「ええ。でも。それは決まっているのです」 そう言って二の剣は頭を下げた。 その夜、目が覚めた江滝は、隣に美しい妻が寝そべっているのに気が付いた。そこで手を伸ばして頭を撫でてやると、嬉し気に話しかけてきた。 「ねえ貴方……。今日、やっと九百九十九人目になったの……。あと一人で手足が生えてくるのよ」 「ああ……それは喜ばしいことだ……では、あと一人……」 「それなのだけれどもね。私……最後の一人は堂陛下に抱いてもらいたいのよ……」 「なんだって?」 「中庭に、大変な財宝があるわ。それを貢ぎ物にして、堂陛下にお目通り願えないかしら?私の……最後の男は尊い方がいいの……」 「だけれどお前……、陛下はお前のような女は好かれないぞ。年増の太った女がお好きなんだ……」 「お願い……。私を王宮に連れて行って……」 くすん、と泣き真似をして体を寄せる愛しい妻の頼み。聞かぬわけには行かないな、と苦笑して江滝は頷いた。 「解った、解った。それでは連れて行ってやろう」 「ありがとう……ほんとうに、嬉しい」 そう言って睡蓮は江滝の唇に口づけをした。 漣の王宮では、堂萬が渋い顔をしていた。ここ数か月、江滝の姿が見えぬ。 (まつりごと)の少しも解らぬ堂萬は非常に困り果てていた。 周りの部下共も無能であるし、自分も無能だ。ただ、享楽的な遊びや贅沢な暮らしをすることだけには長けている。そんな人物である。 「今日も、江滝は来ぬのか」 「はあ……」 側近に聞いても顔を傾げるばかりだ。さて、どうしてくれようか。と思った時に訪問者を告げる銅鑼の音が聞こえた。 「王様、江滝様おいででございます!」 「おお……待ちかねておった、通せ、通せ」 そう言うと。 大きな扉が開かれて、笛の音が聞こえた。 次に鐘の音。 太鼓の音。 楽団のような装いの男、女が十人程、入ってくる。曲は【天帝ここに在り】である。 次に色とりどりの美しい衣の踊り子達だ。 続いて、牛が、大きな荷台を曳いて現れた。乗っているのは様々な高価な品物である。 反物、翡翠、宝石の山、それに財宝、の上に薄く淡い桃色の着物を着た四肢のない女が乗っていた。 そして高らかに、のびやかに歌うのだ。 「この地に、天帝在り。彼はこの地を統べる唯一なり。この地の全ては彼であり、全ての物は彼の物である。この地の全ては彼の物、彼の眼、瞼なく、時に白眼の彼。漆黒の濡れた髪よ、崇めん。来、来、来。」 「なんだ、なんだ」 突然の余興に驚く堂萬とその家臣に、女は大きな、はっきりとした声で言った。 「王様、我らの堂陛下!貢ぎ物を持ってまいりました!私は江滝の妻、睡蓮でございます!魔物の呪いを取り払うべく!いざ!どうか私を抱いてくださいませんか!」
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加