43人が本棚に入れています
本棚に追加
狂宴
それから。
二か月の間、男達の列は続いた。
誰もが女を抱くために正装し、自分の大事な物を持って、江家に入ったが。なぜか江家は日に日に手入れがされなくなり、江滝の両親は姿を消し、江滝は昼間は寝て暮らしているので誰も見なかった。
草、生え。苔、むす。
まるであばら家である。
ただ、中庭にある天帝の霊廟の中で女が男達を待ち構えて、睦み合う。
「あはははは」
愉快に彼女は笑っている。とても楽しそうに男に犯される。
ある日。急に睡蓮が二の剣を呼んだ。二の剣が睡蓮の元へ行くと何事かを囁いた。そこで二の剣が頷いて列をなしていた男達にこう告げた。
「どうもありがとうございました。これで彼女の願いが叶います。どうぞ、みなさんお引き取り下さいませ」
「なんだと、俺がどこから来たのかしっているのか」
「そう言われましても。今で九百九十九人目なのです」
「ならば一人、残っているではないか」
「ええ。でも。それは決まっているのです」
そう言って二の剣は頭を下げた。
その夜、目が覚めた江滝は、隣に美しい妻が寝そべっているのに気が付いた。そこで手を伸ばして頭を撫でてやると、嬉し気に話しかけてきた。
「ねえ貴方……。今日、やっと九百九十九人目になったの……。あと一人で手足が生えてくるのよ」
「ああ……それは喜ばしいことだ……では、あと一人……」
「それなのだけれどもね。私……最後の一人は堂陛下に抱いてもらいたいのよ……」
「なんだって?」
「中庭に、大変な財宝があるわ。それを貢ぎ物にして、堂陛下にお目通り願えないかしら?私の……最後の男は尊い方がいいの……」
「だけれどお前……、陛下はお前のような女は好かれないぞ。年増の太った女がお好きなんだ……」
「お願い……。私を王宮に連れて行って……」
くすん、と泣き真似をして体を寄せる愛しい妻の頼み。聞かぬわけには行かないな、と苦笑して江滝は頷いた。
「解った、解った。それでは連れて行ってやろう」
「ありがとう……ほんとうに、嬉しい」
そう言って睡蓮は江滝の唇に口づけをした。
漣の王宮では、堂萬が渋い顔をしていた。ここ数か月、江滝の姿が見えぬ。
政の少しも解らぬ堂萬は非常に困り果てていた。
周りの部下共も無能であるし、自分も無能だ。ただ、享楽的な遊びや贅沢な暮らしをすることだけには長けている。そんな人物である。
「今日も、江滝は来ぬのか」
「はあ……」
側近に聞いても顔を傾げるばかりだ。さて、どうしてくれようか。と思った時に訪問者を告げる銅鑼の音が聞こえた。
「王様、江滝様おいででございます!」
「おお……待ちかねておった、通せ、通せ」
そう言うと。
大きな扉が開かれて、笛の音が聞こえた。
次に鐘の音。
太鼓の音。
楽団のような装いの男、女が十人程、入ってくる。曲は【天帝ここに在り】である。
次に色とりどりの美しい衣の踊り子達だ。
続いて、牛が、大きな荷台を曳いて現れた。乗っているのは様々な高価な品物である。
反物、翡翠、宝石の山、それに財宝、の上に薄く淡い桃色の着物を着た四肢のない女が乗っていた。
そして高らかに、のびやかに歌うのだ。
「この地に、天帝在り。彼はこの地を統べる唯一なり。この地の全ては彼であり、全ての物は彼の物である。この地の全ては彼の物、彼の眼、瞼なく、時に白眼の彼。漆黒の濡れた髪よ、崇めん。来、来、来。」
「なんだ、なんだ」
突然の余興に驚く堂萬とその家臣に、女は大きな、はっきりとした声で言った。
「王様、我らの堂陛下!貢ぎ物を持ってまいりました!私は江滝の妻、睡蓮でございます!魔物の呪いを取り払うべく!いざ!どうか私を抱いてくださいませんか!」
最初のコメントを投稿しよう!