狂宴

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白い髪が揺れる。小さい体が縦横に広がり、ずん、と重量を増した。 「ひい……!なんだ、お前は」 堂萬がむくむく、と大きくなる睡蓮に悲鳴を上げて椅子ごとひっくり返る。だが、その頃には睡蓮、いや、陽来には足が生えていた。それから、両腕。 全裸の男。体躯見事な男。舞虎将軍と呼ばれた男。 いつのまにか睡蓮の姿形は消え失せ、陽来が、立っていた。 「ああ……。手が。足が。来、来、来。天帝よ……感謝します」 感極まったように上擦った声を上げる陽来に不満気に二の剣がぼやく。 「まずおいらに感謝してほしいね」 「ああ……二の剣……ようやく……ようやく、」 「ああ。おいらも待っていたよ。おいらを、本当のおいらを使ってくれ!」 そう言って大男の二の剣は素早く衣を脱いで陽来に投げつけると両手を大きく広げた刹那、二の剣の仮の姿だった男の体が飛び散った。そこから現れたのは、立派な、剣だ。 鞘は翠、銀の施し、朱い文様のあしらいはとりどりの花。柄の部分は銀を細い糸にしたものが巻かれていた。 陽来はにっこり、と笑ってその剣を握った。 「ああ、お前は美しい。二の剣、お前と出会えた事を感謝するよ」 そう言って柄を握り、鞘をはらう。 剣の中身は殊更ぎらりと輝いて。 美しかった。 そのまま、怯えて後ずさる堂萬を足早に追い、剣をふりかざして言い放った。 「お前など、王ではない!私利私欲の為、王命を使う王など、要らぬ!我が息子、陽奏、陽冽の仇、思い知れ!」 そう言って、振り下ろした。 堂萬の首が転がる。 場は、(せい)が支配したのち、悲鳴が上がった。逃げ惑うもの、あいつを殺せと叫ぶもの。 その中で陽来は振り返る。 そしてゆっくりと近づいて行く。宿敵に。歩み寄る。 江滝はその場から動かなかった。 ただ、右手を伸ばした。 それはなんの為だったのか。 誰も解らない。 陽来は静かに首を振った。 すると、江滝は笑った。 「ああ……、そうか」 そう言ったのを最後に、江滝の首は胴から離れて、落ちた。 陽来が振るった二の剣はかつて陽来の無二の親友であった血で濡れていた。
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