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「ああ……」
陽来はくしゃり、と顔を歪ませた。
ようやく、会えた。
長かった。お互い辛く、悲しい時期を乗り越えた。お互い、やりきれない思いもある。だが、お互いがお互いをいまだに愛しているということに変わりはないのだ。
「早く行ってやれよ、……父上」
そう言ってにっ。と陽奏が笑う。
「ああ。ありがとう、我が息子」
そう言って陽来は紅花を見た。そして、駆けた。愛する人の元へと急ぐ。紅花も同じく、駆けた。一刻も早く、抱き合いたくて。
「紅花……!」
「あなた……!」
手を、伸ばす。
触れ合いたい。
もう少し、もう少しで、お互いの指が絡む。
その時だった。
紅花の後ろに、小さな糸目の女の子がいた。
美しい絹と赤、金糸の衣を着ている女の子が立っている。年の頃は十もいっていない。綺麗に髪も結わえている。
その娘が。
陽来にぺこりとおじぎをした。
(まさか)
と思った瞬間に、ばら……。と言う音がした。
なぜか陽来の体についていた、両手、両足。
腕の付け根、足の付け根から手足が取れた。
「……は?」
手足が取れた陽来が間抜けな声を出して紅花を見上げると、紅花は何が起こったのか理解が出来ず、両手で頭を抱えて後ずさる。
「いや、いや……なに、これは……どういうことなの?」
それを見ていた民衆が、悲鳴を上げる。その音は轟音となって、叫びになった。
だが、その瞬間。
女の子に似た糸目の男の子が現れた。
今度は青と金の衣を着ている。背格好から言えば、彼が弟なのであろう。
幼い声ながらも、声を張り上げてこう言った。
「天帝、参られます」
そう言うなり、天が、降りた。
ぐん、と時空が歪みばりん、となにかが弾けた気がする。
空中庭園、その場所に、大きな大きな豪華な馬車、それを曳く二頭の人馬、人牛、ぽつんと立つ男と、顔が蠅で出来ている老人のような風情の男が現れた。
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