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聞き分けのない弟に思わず、くだけた言葉で兄は二の剣を叱った。出来損ないの弟。いつもなにをしても失敗ばかりで、一の剣が一生懸命きちんとできるように教えてやってもうまくできずにふてくされて、とうとうやる気をなくして天界に馴染もうとせず、いつも下界を見て暮らしていた不肖の弟である。自分が容易にできることすら満足にできない弟を心配こそすれ、本当に腹が立ったことなど、一度もない。
なぜならこの世で唯一。
血というべきか。いや、剣に血は通ってはいないが……同じ兄弟として生まれたのである。
一の剣において、二の剣は大切な家族であった。だから厳しく育てたが、けして、憎くはないのである。
一の剣のそんな気持ちも知らないで二の剣は嫌だ、と再び言う。
「おいら、おいら……ここで生きていきたい。だって、おいら……陽奏なんだもの。もう……陽来と陽紅花の一の息子、陽奏だ。それが、おいらなんだよ、兄さま」
そう言って兄を見る弟に、一の剣は強い意志を感じた。いつもやる気のない態度で長い時間を過ごしてきた彼が、ここまでなにかを訴えたのは初めての事だ。一の剣が戸惑っていると、天帝がよいではないか、と笑った。
「蓮の王を貰うのだ。その対価を払わねばなるまい?」
「天帝様」
「二の剣や」
そう言って馬車の前で陽来を抱きかかえた天帝が二の剣を見た。
額の金の眼が、射貫く。
二の剣が、はい。と言うと天帝が頷き、懐から何かを取り出して怨女を渡す。華美な衣を身に着けた怨女がそれを恭しく受け取り、二の剣に歩み寄ってそれを渡した。
一つは、なにか、からころとしたものが入っている土器、焼き物。とても小さく、うずらの卵ほどである。
もう一つは、孕み玉、と天界で呼ばれるものだ。透明な丸い水晶のようなもの。これがあれば、たとえ男同士でも、異種間同士でも子が為せる、いわば媒体である。
孕む腹がなくとも……子が生み出せるのだ。
「天界に帰りたくなったら、その土器を地面に叩きつけて壊しなさい。迎えの馬車を寄越してやろう。二の剣……お前は私が創った可愛い子供のようなものなのだからね……暫く気のすむまで下界で元気でやるがいい」
そう言って、天帝が微笑んだ。
それは、二の剣もとい陽奏がどんな選択をしても所詮自分の手の中だ、と言っているようだった。
陽奏はじわり、と額に汗をかきながらも合掌し、礼をした。
「はい、ありがとうございます、天帝様」
「さあ、行こう……」
そう言って天帝は馬車に乗り込む。身をよじって逃げ出そうとする陽来を押さえながら、怨女と一の剣も馬車に乗り込む。
一の剣が去り際、弟を見て、「ばか……」と悲し気に呟いた。
散らばっていた陽来の手足はいつのまにか消えていた。
蟲爺、楽師、馬王、牛王、男の子、女の子、帰り支度を始める。
「さあ、帰ろう、帰ろう」
そう皆が言い合った瞬間、異形の者共と馬車は消えた。
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