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この世界からバーバリアンを一掃することができたら、彼の世界にまで行って、そこでやつらと戦うというのだろうか。それとも、ここである程度やっつけたら、途中で一、二回、ププといっしょに行ってみるんだろうか。
そんな疑問も頭に浮かんだけど、何より、やっぱりわたしは、自分がヒーローになるというのに抵抗があって、ププにこう言った。
「……あなたのためにも、この世界のためにも、その戦士っていうのが必要なのは、分かった。けど……、それでもやっぱり、わたしはなりたくないし、他の子にたのんだ方がいいと思う。……何度も言ってるけど、わたしはそういうのに、ふさわしくない。わたしは、純粋なんかじゃないんだから……」
するとププは顔をしかめて言った。
「……さっきは『純粋さ』という言い方をしたけど、本当は、正確ではないんだ。戦士にふさわしい性質とは、要するに、『バーバリアンになりにくい』ということ。さっき言った、バーバリアンになりやすい性質――意志の弱さや無責任さとは、真逆の人格を持っていること。そういう人間こそが戦士にふさわしいし、またそういう人間でなければ、やつらと戦うことはできない。……分かっただろう? ボクはこの世界で、すでに多くの人を見てきた。けど、キミのような人間は他にいなかったんだ……!」
わたしは言葉を発することができなかった。自分で望んでなったとはいえ、わたしは長い間、孤独だった。そんな自分が、彼の言葉でみとめられたような気がして、わたしの目頭は少し熱くなっていた。
けれども同時に、わたしはそこまで言わないようにしていた気持ちを、ププのためにも自分のためにも、どうしても言わなければならなくなった。
「……それでもわたしは、なりたくない……。わたしには、他人を助けるなんてできない。……わたしは人間が……、あまり好きじゃないから。……さっきの、バーバリアン予備軍の話で、わたしはピンと来た。わたしはそういう人たちを、正直言って、軽蔑してるの。できる限り関わりたくないし、思い出したくもない……。ああいう人たちさえいなければ、おばあちゃんだって……」
そこまで言ってしまってから、わたしは口をつぐんだ。けれどもププは反応してたずねる。
「おばあちゃん……? 何か、あったのかい?」
わたしはしばらくだまっていたけれども、やがて低い声で、こう語った。
「……わたしは、おばあちゃんが大好きだった……。おばあちゃんは昔ながらの人だったけど、それでいて自由で、たくましくて、何よりとてもやさしかった……。わたしが物心付いたころに、この町でいっしょに住むようになったけど、わたしはそれがすごくうれしかったのをおぼえてる……」
ププは静かに耳をかたむけている。わたしは続きを言った。
「けど……、三年前の、年末のことだった……。わたしは小学五年生。日は暮れていたけど、お父さんとお母さんはまだ仕事中で、わたしは自分の部屋で宿題をしていた。その時、リビングから大きな音がして、続けて幼い弟と妹のうろたえた声が聞こえてきたの……。わたしがおどろいてかけつけると、おばあちゃんが床にたおれていた。後で分かったことだけど、脳梗塞だったの。わたしはとにかく急いで救急車を呼んだけど、なかなか対応してもらえなかった。ようやく状況を伝えて、それからさらに気が気でない思いで待った末に、救急車がやってきて、わたしもいっしょに乗っていくことになった。もちろん、そんな経験は初めて。救急車はサイレンを上げ、他の車に道を空けるよう警告しながら、病院を目指して走っていった。けど……」
わたしは地面をにらみ、両手に拳をにぎりしめていた。
「けど、おばあちゃんとわたしを乗せた救急車は、遅々として進まなかった。救急車やパトカーのサイレンが聞こえたら、道をゆずらなければいけないはず……。なのに、そうはしないで我を通す車が、あまりにも多かった……! 車だけじゃない……! 交差点ではふざけた若者や酔っぱらった大人の群れが、わめきながら、救急車の前に立ちはだかったのっ!」
ププが息をのんだのが分かった。わたしはここで、呼吸と気持ちを必死の思いで落ち着かせると、低い声でさらに言った。
「……おばあちゃんは、助からなかった。病院に着くのが遅すぎたの。わたしは何日も何日も泣いて……、ようやくおばあちゃんとの別れを受け入れ、間もなく、気づいたの。……世の中には、どうしようもなく幼稚な人間がいるということに……。救いようのない、馬鹿がいるっていうことに……!」
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