3 絶望

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3 絶望

 野蛮な時代。そうププは言った。分別と良心を失った野蛮人、バーバリアンの時代……。そしてここから何百年か先の未来、ププの時代には、人類はすべてバーバリアンになっているという……。  『これも時代かねえ』、と、おばあちゃんはよく言っていた。昔ながらの作法や気づかい、ものの考え方が理解されなかった時、あるいは愛着のある景色や品物が、変わってしまったりなくなってしまった時などに、とても悲しそうに……。  時代は変わる。形あるものはいつかは壊れる。そしておそらく、積み重ねられ、整えられたものほど、ちょっとしたことですぐに壊れてしまう。そうして乱雑なものほど、そのまま長く残るのだろう。 「……いやだな……」  わたしは、そうつぶやいていた。時代は変わる。命もいつかは終わる。まともな人間はいなくなり、世界が化け物のものになることは、もはや決まったようなもの……。  だけどまだ、残っている。わたしの中に、残っている。わたしの大好きだったおばあちゃん、そのおばあちゃんが大事にしていたもの――時代遅れの趣味や価値観、心持ち。ちょっとした気づかい、ちょっとした努力、自分の足で立つたくましさ。  わたしは、それを失いたくない。最後は負けることは分かっている。だけど、ほんのせまい範囲でいい。わたしはそれを、まだ守りたい。  わたしは、そう思った。  ガッシャ! ガッシャ! バリンッ!  と、その時金属やガラスの壊れる音がして、わたしは我に返ったようになった。 「ヒッ……! 姉ちゃんっ……!」 「うわぁあん……!」  弟たちが泣いて声を上げる。わたしはすばやく裏手の窓から下をのぞいた。一階台所の、柵のはまった小窓が壊され、バーバリアンが入りこもうとしている。他にも、何匹ものバーバリアンが、壁をよじ登ったりとびつこうとしているのが見えた。 「……ププ」  低い声で、わたしは言った。もはや目を閉じてうなだれていた彼は、不思議そうに顔を上げてこちらを見る。わたしはこうたずねた。 「……変身っていうのは、一分も二分もかかるものなの?」  ププはとまどっているようだったが、わたしはさらにたずねる。 「やたら髪が伸びたり、ひらひらした服になったりするの? 明るい声で大見栄を切ったりしなくちゃいけない? おもちゃを宣伝したりする必要はあるの?」 「えっ? 何っ? 何を言っているんだっ……? 戦士の変身のことかいっ? 変身ならすぐにできる。ボクが適した人物にナノマシンを注入しさえすれば、自分の意志一つですぐにでもその人は変身できる。合わせて二秒もかからないし、その人が思いえがいた姿になれる。見栄とかおもちゃとか、よく分からないが……」  ププはそう言った。わたしは彼のそばに寄ると、その小さな体を自分の手の平に乗せて言った。 「それなら、問題なさそうだね。これから戦うっていうのに、無駄やじゃまなことはない方がいいもん」 「えっ、戦うっ? あかりっ、キミはっ……、この状況で……!」  ププは目を丸くして言った。弟と妹も、混乱しながらわたしを見つめる。わたしはププに言った。 「さんざん待たせてごめんなさい。わたし、『戦士』になる。手遅れだって言いたいかもしれない。分かってる。けどどうか、わたしにやらせてほしいの」  ププは開いた口がふさがらない思いだったかもしれない。けれども彼は、間もなくわたしをじっと見つめて、こうたずねた。 「……戦うんだね……? すでに状況は絶望的だとしても……」 「……戦う。その絶望と共に」  わたしは、そう言った。
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