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ププはほんの少し笑うと、わたしの肩に飛び乗り、わたしのうなじに指を一本当てた。
「ちょっとちくっとするよ」
彼が言い終わるや否や、注射のような痛みがして、直後にわたしの全身に電流が走った。どちらの刺激もすぐに消えたが、わたしの中で、何かが変わったのがはっきり感じられた。
ガシャン! ドガッ!
「グファハハハーーッ!」
一階から大きな物音と、バーバリアンの笑い声が聞こえてきた。とうとうやつらが、中に入ってきたのだ。わたしはすばやく弟たちに言う。
「大地っ、華っ、二階のトイレに隠れててっ! そこが一番安全だから! ププッ、二人をお願いっ!」
「お姉ちゃぁんっ……!」
妹は取り乱した。弟もうろたえていたものの、隠れる必要は理解したようで、妹を支えて動き始める。
わたしは走ってその部屋を出ると、階段を飛ぶように降りながら、心の中でスイッチを入れた。
「……これが、変身……!」
わたしの体は光に包まれたかと思うと、一瞬後には、姿が変わっていた。
と言っても、わたしがなったのは紺色のセーラー服、スカート丈は短めで、厚いタイツ、それから不織布のマスクに、ほどいた黒髪セミロング……。要するに、ほとんどどこにでもいる女子学生の姿だ。わたしが考えていたことは二つ。動きやすいことと、もしもこの後ふつうの社会生活を続けられる可能性があるなら、できれば身元がばれないようにしたいということだ。
しかしそんな格好のことよりも、その時わたしの体の内側には、まるでガソリンが燃えているかのような、激しいエネルギーがみなぎっていた。廊下を進もうとして一歩ふみしめたスニーカーが、床の板をくだいてしまったのが分かった。閉め切って電気も点けていないのに物がはっきり見え、外でバーバリアンが何人動いているのかも音で分かる。自分の全身の細胞一つ一つが活性化し、研ぎ澄まされているのが感じられた。
「グオオオオッ!」
リビングの入り口に、バーバリアンが姿を現した。わたしが思わず急ブレーキをかけると、反対に敵は猛然ととびかかってきた。
(でも、遅い……!)
バーバリアンの動きが、まるでスローモーションに見えた。わたしはまるで習いたてで動きをたしかめるかのようにして、相手に変形入り身投げをかけた。
ドバキャッ!
引き手の力をかなり加減したつもりだったが、相手を床に埋まるほどたたきつけてしまった。残心の構えでたしかめると、バーバリアンは気を失ったようだった。
が、その時背後に気配を感じて、わたしはとっさに身をひるがえした。体を回しながら、別のバーバリアンが手を伸ばしてつかみかかろうとしていたことを知る。わたしは回転しつつ、相手の手を外から取って、相手の勢いそのまま、胸から先に床に落とした。この技は『一教裏』だ。
相手は腕を後ろにひねられる形になるのだが、大して力も入れてないのに、バーバリアンの肩はボキッと音を立てて壊れてしまった。自分の力が空恐ろしくなるとともに、わたしはこれなら、化け物と戦えると思った。
そうこうしているうちに、また別のバーバリアンがリビングに現れた。二匹目のバーバリアンもたおれてはいるが、まだ動ける。今のわたしの力なら、頭に一撃入れれば気絶させられるだろうが、気絶を通りこして死なせてしまう可能性もある。しかし、元は人間だ。
「あかりっ! 浄化するんだっ!」
と、ここでププが階段から大声で言った。そうだ、浄化だ。精神のエネルギーというので、バーバリアンを人間にもどせると彼は言っていた。
「何をどうすればいいのっ? すぐできるっ?」
わたしは早口で言った。ププもまくしたてる。
「シルバーシャイニングエナジーバレットだっ! 指先に精神エネルギーを集中し、バーバリアン目がけて解き放つんだっ!」
技名を言わなければ二秒はかせげたと思うが、とにかくわたしは、わたしに向かって腕をふり回している三匹目の胸に、人差し指と中指を当てて、その先に力をこめるようにした。すると瞬時に人差し指の先が白く、いや銀色に光ったのだ。
(行けっ……!)
わたしがそう念じると、光はバーバリアンの体に撃ちこまれ、その巨体がのけぞり返ってあおむけにたおれた。
「それだっ!」
ププが声を上げた。その直後、撃たれたバーバリアンの腕やほおから獣のような体毛がこぼれ落ち、体がにわかにちぢみ始めた。わたしも思わず声を上げる。
「やった……! こうだねっ!」
わたしは後ろをふり返り、小さいころ輪ゴムを飛ばした時のように人差し指を立てて、たおれた二匹に向かって銀色の光弾を撃ちこんだ。撃たれた者はちょっと弾んだ後は、動かず眠ったようになった。わたしはだまって彼らを放置して、みずからリビングに突入した。
予想通り、台所の小窓が壊されていて、わたしの目の前までせまっていたバーバリアンが一匹、そして一匹が窓から半分体を出していた。
「食らえっ……!」
わたしはふたたび光弾を放ち、立て続けに二匹を浄化した。
「良しっ!」
わたしはそう言い、小窓にかけ寄って、バーバリアンからもどりつつある男を急いで引きずり下ろした。すぐに新たなバーバリアンが入ってこようとしたが、わたしは冷蔵庫をそばから持ってくると、小窓にそれを思い切りめりこませてふたをした。
バキャバキャッ……!
後で思ったことだが、冷蔵庫はいとも簡単に持ち上げられた。また、窓枠はめちゃくちゃだし、冷蔵庫の中は牛乳や卵がひどいことになってるかもしれないが、その時は背に腹は代えられなかった。ともかく、これで一階の侵入口は完全になくなった。
「あかりっ! 二階に来てくれっ!」
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