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ププがさけんだ。わたしはすぐさま二階へともどる。すると二階の廊下の窓から、ベランダのへりに手をかけようとして飛びはねている、バーバリアンの複数本の手が見えたのだ。やつらが本気なら上がってこられそうなものだが、連中はふざけ半分らしい。手をたたきつけて音を鳴らしたり、大声で笑ったりしている。
「結局、危機感の問題なのかもね……」
わたしはそう言ってやつらをあわれむと、窓を開けてベランダへと出た。
「シルバーシャイニングエナジーバレットだっ!」
と、ププが声を上げた。わたしはそんな風に技の名前を大声でさけぶつもりはないし、やたらと英語を使うのは好きじゃない。けれどもわたしはベランダの上でとび上がって真下を向くと、思わず小さくこう言った。
「……『銀光気弾』……!」
わたしの両手の各指から同時に、そして立て続けに光の弾が発射され、庭にうごめいていたバーバリアンたちを次々につらぬいた。やつらにとっては阿鼻叫喚といったところだろう。さけんだり逃げ出そうとする者もいたが、わたしはほとんど外すこともなく、当たったとたんにバーバリアンはたおれていった。
わたしは空中でくるりと一回転して、積み重なったやつらの体の、まだもどりきっていない上に着地した。
「グゥオオアッ!」
と、ベランダの真下にかくれていた一匹が、わたしに背後からおそいかかってきた。が、いるのは気配で分かっていた。わたしは先ほどと同じように一教裏をかけてたおし、すぐさま弾を撃ちこんだ。
続いて家の表側と裏側から、バーバリアンが何匹かずつ飛び出してきた。気弾を外す可能性も考えて、近い相手には合気の技で対応する。足元はたおれた彼らの体で埋まってきたため、わたしは戦いながら道路へと出た。
バーバリアンたちは家の周りをはなれ、門や垣根をこえて、一斉にわたしに向かってきた。最初はわたしの気弾のいい的だったが、間もなくやつらは、それをかわしたり、たおれた仲間を盾にしたり、回りこんだりしてくるようになった。やがて気弾を当てるのが間に合わなくなり始め、わたしは四方八方からおそいかかる化け物を、合気で投げながら戦った。
けれどもわたしはまだ多人数相手の稽古はしていないし、テンポの遅い技などは使ってはいられない。かまれたり引っかかれたりすることもさけなければいけない。使える技は限られる。無尽蔵に思われた変身後の体力も、少しずつ減っていくのがたしかに感じられた。
(……このっ……。負けて、たまるかっ……!)
そう心に言い聞かせて、どのくらい経っただろうか。古い言い方だが、バーバリアンをちぎっては投げ、ちぎっては投げ、そして光の弾で撃ち抜いて……。
「ハァッ……! ハァッ……!」
無我夢中で動き回っていたわたしは、あまりの苦しさに肩で息をしていた。目の前のひときわ大きなバーバリアンが、ドサリと音を立てて地面にたおれる。次の瞬間、背後に気配を感じて、わたしは急いでふり返った。
「ボクだっ……! あかりっ、終わったよっ……!」
宙を浮かんで近づいていたププが、あわてて言った。わたしはなんとか呼吸を落ち着かせて、すぐにたずねる。
「ハァッ……、終わったって?」
「戦いは終わったんだ。総勢百匹あまりのバーバリアンは、すべて浄化された!」
見ればあたりはたおれて人間にもどりつつあるバーバリアンでいっぱいで、動く者もなく、やつらの不快な声も息づかいも感じられない。ププはさらに言った。
「逃げたやつもいないし、弟さんたちも無事だよ。おまけにやつらに攻撃された者は全員がバーバリアン化したようだから、死者数もゼロだ。よくやった……! キミの勝利だよっ!」
わたしが家に目をやると、二階の窓から弟と妹が顔を出していて、自分の目が信じられないといった表情でこちらを見つめていた。わたしは大きく息をつくと、疲労も相まって地面にへたりこんだ。
「どうしたっ? 大丈夫かいっ? 勝ったんだよっ……?」
ププはわたしの顔をのぞきこんで言った。わたしはしばらく間をおいてから、ふたたびちょっと息をついて言った。
「……家族が無事で、本当に良かった。……けど、家も近所もめちゃくちゃ。これ、どうしよう……?」
ププは軽くふきだしたが、ここでわたしはさえぎるようにして、さらにこう言った。
「それに……。あなたは近所の全員がバーバリアンになった、って言った……。それはつまり、周りの人間のほとんどすべてに、やつらの『素質』が根付いているってこと……。喜ぶ気持ちになんかなれない」
ププは辛そうに表情をゆがめる。わたしはこう言った。
「……戦いは、終わらない……」
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