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わたしは少し口をつぐんだ後、顔をそむけて低い声で言った。
「……そんなの……、取って付けた理由じゃなくて? それに……。わたしはっ、ぜんぜん純粋なんかじゃない……! やさしくもないし、かわいくもないっ……! アニメのヒロインみたいな、素直で明るい、愛情深い性格じゃあないのっ……!」
わたしのただならぬ気配を感じてか、ププはとまどいを見せていた。けれどもやがて彼は別の方向からわたしを口説こうとしたらしく、こんな風に言ってきた。
「……変われるよ、戦士になれば……。お察しの通り、戦士には変身してなるんだ。最高にかがやいている女性になれる! メタモルフォーゼはみんなの夢だろ?」
けれどもわたしは鼻で笑って答えた。
「フン……。それは多分、何十年も前の感覚だと思うよ。中学生にもなった女子ならなおさら、自分がこの先どんな大人になったらいいのか途方に暮れてるんだから。体だけの話なら、わたしなんかすでに、身長もほとんど伸びなくなってるし」
絶句するププに向かって、わたしはさらにこう言った。
「さ、分かったでしょう? わたしはこんな、ひねくれた女なの。本気で伝説の戦士を探したいなら、さっさと他の子にお願いした方がいいよ」
そうしてわたしが、公園の植えこみのかげから出ようとした、その時だった。
「グフゥッ……!」
と、気味の悪いうなり声が聞こえてきたのだ……!
わたしがあわてて顔を上げると、通ってきた道のカーブの先に、先ほどの恐ろしいマンドリルの化け物、すなわちバーバリアンが、ふたたび姿を現していた。
「しまった……!」
わたしは声をもらした。逃げ切れたと思ったのが、まちがいだったんだ。バーバリアンはこちらを目指して、ふたたび突進してきた。さっきのスプレーはもう効かなくなったのだろう。目を大きく見開いてわたしを見定めている。わたしはすばやくププの体を引っつかむと、元の道にはもどらず、公園の林の中の小道をかけだした。
「キミはっ……、やっぱりボクを、助けようと……!」
わたしの手の中でふられながら、ププが言った。けれどもわたしはすぐに否定する。
「そうじゃないっ……! あなたっ、スマホは使えるっ? 走ってるわたしの代わりにっ、警察に電話してっ! スマホはかばんの中っ! お願いっ!」
「なっ……、それなら変身した方が早いよっ! 戦士になって戦うんだっ!」
ププはヒステリックに言ったけど、わたしは顔をしかめて答える。
「ハァッ……! わたしはっ……、ふさわしくないっ……! わたしにはきっと、その資格がないっ……! お願いっ! 電話した後、わたしや他の人をっ、助けてくれる子を探してっ……!」
ププはなお、ためらいを見せたけど、その時わたしの背後には、バーバリアンがもうせまっていたのだ。
「グファッハッハッハッ……!」
おぞましい笑い声のような鳴き声が聞こえて、わたしは走りながら後ろをふり返った。すると猿の化け物が恐ろしい顔つきのまま、実際にうすら笑いを浮かべていた。
「グファッ! ソノ顔、タマランッ! グフフゥッ! タマランッ! ビビってるビビってるっ! ビビってる顔、タマランッ!」
身の毛もよだつようなせりふを、バーバリアンははいた。わたしは恐怖とはき気をこらえながら、わめくようにバーバリアンに言った。
「来ないでっ! あなたっ、人間なんでしょっ? 言葉通じるんでしょっ? わたしをどうするつもりっ? すぐに警察に捕まるのが落ちでしょっ!」
けれどもバーバリアンは目を血走らせ、よだれを流しながらこう言った。
「イイッ! どおでもイイッ! タマランタマラン! 食いたくて食いたくてタマランッ! 他のコトなんかどーでもイイィッ! オマエを食いたくて食いたくてっ、食いたくて食いたくてタマラナイィイイッ!」
彼は日本語をしゃべっている。こちらの言葉に反応もしている。けれども言っていることは、とうてい人間の考えることではなかった。これが、バーバリアン。説得も命ごいも成り立たない。本当に人を食べるつもりなんだ……!
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