27人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日、学校で少し前より仲良くなった木尽藍那に、唯乃は訊いた。
「あのさ。山根先輩って知ってる?」
「え!?」
藍那はあからさまに嫌な顔をした。
西山浩二と小山来呂を思い出したからだろう。
G孤虫症と、地域への偏見から始まった、最悪の事態。
自分は大怪我をして、志穂子は殺された。
そして、その発端の浩二と来呂も死んでしまった。
山根はそのG孤虫症で亡くなった本人だ。
唯乃も藍那の気持ちを直ぐに察した。
「違うの! 弟が山根先輩の妹と最近仲良くて、家にも来たりして、凄く良い子で。何かどんな人だったのかな? って気になってさ」
「ああ!」
と藍那は驚いたような納得したような顔で言って
「お姉ちゃんだから、弟の彼女が気になるのね?」
と表情がほぐれ笑った。
「半分違うよ。彼女とかまだそんな感覚弟達には無いし、真美ちゃんは凄く良い子だから、心配はして無いよ」
「そう」
と藍那は嬉しそうに笑った。
どんな小さな恋の話でも、女子は恋愛ごとは大好きだ。
「鈴香先輩は優しい人だったよ。スポーツ万能ってタイプでは無かったけど、勉強はできたし。ああ、別に大人しいって感じでもなくて、バスとかで一緒になると普通に良く話し掛けてくれた」
「そうか。優しい人だったんだね!」
唯乃はG孤虫症についても知りたかったが、それを聞ける感じでは無かった。
聞けばまた藍那の気分を害すのは確実だろうし、少し考えれば藍那がG孤虫症に付いてニュースで聞いている以上を知っている訳も無かった。今回が約100年ぶりの症例なのだから。
今日は美智恵は学級委員があったので、帰宅は1人だった。
唯乃は遊歩道に出ると、そのままいつもと逆に進み、自転車で藍ヶ下に向かった。
着いて何となく街を回ってみた。
近くの地区ではあるが、生まれて一度も自転車で来た事は無かった。
一度も会った事のない。山根鈴香の事を考えた。
この通りを通って、このコンビニに行って、とか。小さい頃はこの公園で遊んだのかな? とか、色々生前の事を想像した。
そして、症状に気付いて死ぬまでの事も……。
自分はそれをこれから追体験する事になる。
それは恐ろしい事だったが、想像して置かないと、その時に備えられない。
その時とは何だろうか?
——死ぬ瞬間か。
寂しく自答した。
優しい人だったと言うが、なんで私の前に現れたんだ?
同じ病気へ掛かった事を伝えに来たのか?
良く分からない。
スカートの中が気になる。朝見た時は昨日潰した後に、小さな瘡蓋があるだけだったが——。
本当にG孤独虫症なのだろうか? 100年振りがそんなにすぐにまた来るのか? 医者に行けばはっきりするのだが、怖くてその勇気がない。
真実が分かった所で、風評被害の矢面に立たされた上に、延命治療しか無いのだから。なんの希望もない。
スマホで地区の墓地の位置を確認した。
山根鈴香の家も分からないし、分かった所でどうしようもない。娘さんを殺した寄生虫の事を教えて下さい、何て聞ける訳無い。
家はの場所は分からないが、きっとそこまで広い地区じゃないから、山根鈴香の墓のくらい分かりそうだ。墓参り位して帰ろう。
墓地は北と南の二ヶ所あり、自分の今いる場所からだと南の方が近い。
唯乃は南の墓地を選んだが、墓地について直ぐに山根家の墓石を探すのは、無理だと悟った。
土地の広さだけ見たら、目が飛び出る程広くは無い。想定を少し出る位だが、墓石の数は想像を超えていた。
パッと見では多くは見えないが、数えると手間の小さな一角だけで10を超えている。全部で数百は下らないだろう。此処を今から虱潰しに探していたら、日没まで掛けた位では、余程運が良くない限り無理だろうと諦めて、帰宅時間を考えて今日は帰路に着いた。
山根鈴香の墓は北側の墓地だったので、唯乃は運が悪いのか? 良いのか? という所だが、そんな事は唯乃本人は知る由も無かった。
最初のコメントを投稿しよう!