病はどこからやって来たのか?

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帰ってからG孤虫症に着いてもう一度ちゃんと調べた。 と行っても、専門書なども無いのでもっぱらネット検索であるが。 スマホじゃ面倒なので、久々に机の端に置きっ放しのノートパソコンを開いた。 父親の仕事のパソコンのお古だが、ネット検索位は余裕でこなせる。 椅子に腰掛け、早速検索を始めた。 昨日まで程、悲観した気持ちも無かった。 もう道が決まっているなら、その道をどう行くかを考えようと思った。 それは、若さゆえの潔さでもあった。 人は歳を取ると抱えている物が多くなるから、そうはいかない。 いや勿論、若い者にも同じくらい実は抱えている物、いや背負っている物があるのだが、その自覚がまだ無いのだ。 (勿論、個人差はあるが)少し生きてみて、過去の自分を少しだけ客観視できる様になるとそういう物も見える様になるが、まだ唯乃はそこまで生きて来て居なかった。 G孤虫症——。 G孤虫(Gこちゅう、学名:S)が人に寄生する事で起きる、感染症の病名。 G孤虫は、裂頭条虫目裂頭条虫科に属する条虫の一種である。 サナダムシの仲間と言われている。 人に感染し、致死的な寄生虫感染症とされるG孤虫症を引き起こす。 その致死率は現時点において100%である。 ニキビのような症状が出て、じきにG孤虫が体内で増殖し始め、分裂を繰り返しながら爆発的に増える。脳や臓器、筋肉に寄生する事で、視覚や運動機能に異常を来し出す。そして最終的に宿主を死に至らしめる。 感染ルート不明、正体不明(成虫不明)、の謎の寄生虫であり。 発症すると外科手術で取り除くしかないが、延命にしか効果はなく、結果的には死に至る。 前記で記した通りに、感染して助かった者はいない。 18XX年の最初の報告以来、約100年間における本症の症例として確実なものは世界で僅か7例である。 ——その内の5例は日本である。 「なるほど。それに今回のを加えて8例目か」 前も読んだ記事である。 さらに検索すると——。 中には、G孤虫の写真もあった。 説明も、少ないが他にも多少は書かれていた。 「つまり、この写真は、まだ子供って事か。確かに似てるな(ニキビから出てきた物と)。此処から本当は成虫になるのだけど、その前に宿主が死んじゃうのか? 本当の宿主が違うからか? なるほど。何々? 動物にも寄生例がある? 人獣共通感染症(じんじゅうきょうつうかんせんしょう)。動物にも人にも感染するのか。 でも感染経路は全て不明——。動物が——? いや、私は此処1年野良猫とだって接してない」 「怖くないの?」 「ん?」 「死ぬのが……」 ——えッ!? 集中していて気付かなかった。耳元で語りかけている!? 誰かがモニターを覗く自分に顔を寄せている。 息遣いを感じる。 その手は自分の座る椅子の背もたれにある。 ……それを感じた。 「——ッ!?」 顔を上げて悲鳴を上げようとしたが首が動かない。声も出ない。 ゆっくり横の顔が、後ろに下がっていくのを感じた。 その時——、 「……私のを…に来て……」 そう言って、気配がスッと消えた。 金縛りを解かれたように、ハッ!? と立ち上がり後ろを見るが ——誰もいない。 なんなんだ? 山根先輩か? なら、山根先輩は何がしたいんだ? なんの嫌がらせだ! 恐怖超えて、なんだか怒りがこみ上げた。 死ぬのが怖くない訳がない! 死にたくなんてない……。 でも、最後に何て言ったんだろう? やっと初めて、何か思いを告げようとして来た。 今の言葉に何か大事な意味が絶対にある筈だ。 『来て』の前に、何かを言った。 確か……? を…って言ってた? そこに行けば、何かあるのか? そこが分かれば、もしかしたら——。 を…、って何だろう? 私のをって、 私のー、と伸ばしたから、最後の部分が『を』に聞こえたのか? そんな感じじゃなかった。 あっ!? 違う! そうか!? 唯乃には、どこの事か分かった。 明日そこに行こう! そう思った。 それで何も無かったら——。 もう終わりだ……。 病院に行く事は出来ない。 もし、G孤虫症なら家族にも迷惑が掛かる。 私が死んでも、風評被害がある。 他人の事なら、差別はしちゃいけない! と強く言うだけで済むのに、自分や身内の事となると凄く世の中の目が不安だった。 人の心が、思ったより信用出来ていない自分を知った。 藍ヶ下出身の人達は、今までどんなに気持ちで生きて来たのだろう? 差別なんて無くなったと思っていても、小山や西山の様な人間が、ふと思い出した様に軽い気持ちで差別を始める。きっと常に心のどこかに不安があるだろう。 あの真美ちゃんだって……。 そんな、状況に弟や家族をしたくはない。 姉がG孤虫症で亡くなった真美ちゃんにだって、きっと下らない被害が及ぶ。 そんな形で、弟達の関係にヒビ入れたくない。 どうせ死ぬなら、G孤虫症に掛かったと知られる前に自分で死のう。 そう心に決めた。
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