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背後を見て良く目を凝らすと、闇の中に何かあった。
すぐ後ろなのに闇が濃すぎる上に、川音もあって、全く分からなかった。
そこから明かりが漏れて、それがやっとテントだと気付く。
あのテントだ!?
男が2人そこから出て来て、やって来ると——。
小さい方が
「ごめん。ごめん。携帯代滞納してて止められてたんだ。さっきコンビニで払って来てさ——」
と頭を掻きながら、ゆるいテンションで言った。
多分、携帯を持ってる方だから、こっちが波久礼だ。
黒いシングルのライダースに白髪、あの時橋の側で見た男だ。
そう思いながらも
「……。」
あまりの突然の登場と、自分とのテンションの差に唯乃は面食らっていた。
「ちょっと待ってて」
と、波久礼はあの一眼レフカメラを構えて、唯乃を見た。
「写真? 撮るんですか?」
「いや——。君に取り憑いているそれは、ムシだよ」
「はい。知ってます。寄生虫ですから」
「違うよ。虫が3つの蟲」
波久礼はカメラから目を離して言う。
「虫が3つ?」
「疳の虫とか、腹の虫の居所が悪いとか、昔の人は目に見えない物を蟲の所為にしてたろ? それと同じ類さ。まあ、後に科学で色々解明されて蟲の所為では無い事が分かった物もあるけどね」
「はあ? で、その蟲に私は取り憑かれているんですか?」
「まあ、そういう事だね」
「あのぉ、波久礼銀太さん……?」
「波久礼って読むんだ」
「あっ! すいません。波久礼さん!!」
「で、ワイが比嘉士鶴やでぇっ! ひ○パーお兄さんや無いでぇ!」
聞かれてもないのに、デカイ方が凍えそうな程寒い中、凍死してしまいそうに寒い自己紹介をした。
唯乃はひ○パーお兄さんなんか知らない。
比嘉は白いロングコートを着ていた。こっちもあの時、橋の側で見た。
「は、はあ……。よろしくお願いします。——で、治るんですか?」
「悪霊なら、供養かお祓いをするが、それは人の霊じゃないから、供養はない。だから普通はお祓いとかするけど、お祓いは各霊や、呪い、物の怪、etcで、色々形式が分かれる。蟲は広義では物の怪、所謂妖怪なんかに含まれるけど、君のそれは未知の蟲だから、払い方を探してる内に君が死んじゃうだろうね?」
「やっぱり、助からないんですか!?」
「いや、普通ならって事さ。俺は一度その蟲を払ってる」
「えっ!? 本当ですかっ?」
「ああ、あの真美って子にも同じのが取り憑いていた。もっと細くて小さいけどね。あの子の姉が最初の被害者だろう? あの子の口から入ろうとする蟲を抑え込んでたよ」
「山根先輩が? 真美ちゃんにも移してたんですね? でも、お二人が真美ちゃんに会う前ですよ? 山根先輩が私の前に現れたのは?」
「真美ちゃんも鈴香さんも、多分同時期に取り憑かれたんだよ」
「一緒に?」
「ああ。それでどうしてか知らないけど、最初に発症したのが鈴香さんだった。——蟲と言っても、性質は寄生虫に似てるんだろう。そいつは霊体に寄生するのさ」
「霊体に?」
「肉体が死した後、霊体に寄生して鈴香さんの自我を封じて操り、次の宿主を見つけさせるのさ。それで寄生されたのが君って訳さ」
「霊を操るって?」
「寄生虫ってのは、宿主がいないと生きて生きていけないからね。宿主を見つけるのに、そいつは霊体を使う。単細胞生物みたいな割にはなかなか賢いよ。霊の自我を封じる事で、土地に縛られる地縛霊にもならない。浮遊しながら、次の宿主を見つけさせる。自我は封じられるけど、知性は残ってるからね。ただ浮遊して運任せの蟲よりはずっと効率的だ。ある程度ターゲットを決めて狙える。蟲は取り憑かれた人間に、霊体と一緒に寄生するように取り憑く。それで取り憑かれたのが君。その後は、鈴香さんは蟲による自我の封印から解かれて、自由になったんだろう。それで、自分の妹を守る為に、妹の元にやって来た。蟲は人に取り憑く前は、霊体と生物の間みたいものだから、霊体である鈴香さんにも掴めた。妹の蟲を俺が払ったから、今度は君を俺に巡り合わせようとしたのさ。君を救う事できっと彼女も成仏できるだろう」
「取り合えずまあ、此処で脱いでみぃ?」
比嘉が口を挟む。
「此処でですか?」
「当たり前やっ! 一刻を争うんや!! すっぽんぽんになるんや!」」
「分かりました……。」
「やめろ! 士鶴!! ふざけるなっ!!」
ドカッ!!
と何かが打つかる重い音がして、比嘉が後ろに吹っ飛び。
ズギャギャギャギャァァァァァァ————ッ!!? と河原に砂埃を上げ転がった。
「下らねえ事すんじゃねーよ。未成年に下手な事すると逮捕されんだろっ!!」
「冗談やがな! 涙牙で殴るなや! 死んでまうやろ!!」
比嘉は立ち上がって、コートを叩き言った。
「へっ? ……冗談? 人が真面目に悩んでるのにっ!! からかったんですかっ!! もう良いですっ!! やっぱりもう死にますっ!!」
唯乃は黒田川に身を投げようと、じゃぶじゃぶと川の中に入り出す。
「おい待てって!」
という波久礼の声の後
「えっ!?」
唯乃の体は宙に浮き、川岸まで戻される。
見えない何かに、体が巻きつかれている。
「……っ!?」
唯乃はなんだか分からない。
「大丈夫だって。すぐに終わるから」
と波久礼は、1枚あの古い一丸レフカメラでパシャリッ! と唯乃の写真を写すと
「もう終わったよ」
と言った。
「これで終わりなんですか? これだけで!?」
唯乃はあまりの呆気なさに驚き言う。
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