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「その話も、聞いてる」
と、波久礼はどこで聞いて来たのか、学校内の話も大方知っていた。
「あの大蛇が実在した(現代に霊として)なら、木尽さんの見た大蛇に飲まれた西山君の話も本当だと思うんです。でもなんで、あの森に西山君はいたんですか? どっかで吐き出したんですか? でも、私あの橋の下で大蛇のお腹の部分に人の形を見たんです。あの時に、波久礼さんが捕まえたんですよね? 他に行方不明とか聞かないから、あれは西山君では——?」
「あの森には、神隠し伝説がある」
「はい。尊が帰って来た後で、私も知りました。それが何か?」
「文献によると、黒い肌の男は分からなかったけど、神隠しにあった子供は見つかっている。それが、あの黒蛇様の祠なんだ」
「え?」
「神隠し伝説について、藍ヶ下で聞き込みをした。神社にその事を記した文献が残ってたよ。まあ、全然読めなかったんで、神主さんが教えてくれた。あの祠の扉が開き中から出て来て、無事に親元に帰ったって。黒い肌の男の具体的な文献は無かったけど、神隠しにあった少年が発見された具体的な文献は、君の住む黒田川の流れる仲町にも残ってたよ。藍ヶ下に住む小川三朗7歳が行方不明になり、黒田川の祠の側で発見されて家に返されたって。大正元年の事だ。その子孫はもう藍ヶ下には居ないけど、三朗と子孫と同級生だったと言う人にはあった。数年前に、転勤を理由に三郎の子孫は、家族で藍ヶ下から出て行ったそうだ。——多分、小山と融合した大蛇の腹の中には、西山が居たんだろう。それを俺が知らずに、そのまま捕らえてしまった。——で、大蛇の腹の中と、今度はあの森が繋がった事で出ては来れたが、生きながら消化される恐怖で自我が崩壊してしまった。まあ聞く限りでは、その前から精神ははボロボロだったろうけどね。完全に崩壊したんだろう。その上、不浄の物に触れ過ぎたからか、半分化物みたいになってたよ」
「化物?」
「何かに取り憑かれてるような状態だよ。痛みを受けても平気だったり、常に怒りに任せて興奮してる状態だから、普通よりも力も強い。まあ、それだけと言えば、それだけだけど」
「それだけって、それで包丁振り回してれば十分怖いですよ?」
「まあ、そうか? 士鶴が穢れを払ってやって、最後は元に戻ったけど。——彼は亡くなったみたいだね」
「あの大蛇に付いてた小山君て、教室にいた小山君なんですよね!?」
「ああ。あの小山は、教室に居たものだろう」
「なんで魚の出口だったのに、今度は入口になるんですか!? 小山君が西山君を食べて、森に出たんですよね?」
「入り口と出口は同じだろ? 君の家の玄関は入口? 出口? 両方だろ?」
「……まぁ。」
となんとなく、これについては唯乃は納得いかない顔をしたが
「——何で小山君は西山君を襲ったんですか? 2人の事はあまり知らないけど、噂では仲が昔から良かったみたいです。なのに……?」
「執着心さ」
「執着心?」
「昔から、死んだ人間が、生きている身近な人間を、引っ張るとか。引っ張られるとか、ある。死んだ人間が、生きてる人間を一緒にあの世に連れて行こうとするのさ」
「えっ!? そんなっ! 身近な人間なのに? 恨みとかですか?」
「そこには悪意はない場合が多い。悪意があるのは、祟りとして出るし。親しい人や、愛する人が連れて行かれるのは、最初に言ったように執着心だよ。特に小山は、自我がほとんど残って無い感じだった。彼は西山が本当に好きだったのさ。そこだけが残ってて、彼を一緒に連れて言ったのさ。割とありがちな話さ」
「……。」
「すべての原因は、あの森だろう」
「あの森が?」
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