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相対
「君が、未来と一緒にいるのか?」
電話を掛けてきた際の丁寧な口調ではなく、その口振りは、王の知っているいつもの青島のものになっていた。
「ハイ。」
何故、とか当然のように抱くであろう疑問に答える気にはなれなくて、王は最低限の返事をするに留めた。
「未来に代わってくれないか。」
青島にそう言われた王は、未来が入っていた診察室に目をやりながら、首を振って答えた。
「デキマセン。イマ、イナイカラ。」
「いない?たった今、電話をしてきたというのに?」
青島の苛立ちは、電話越しでも伝わってきた。
「どこにいるんだ?そっちに行くから教えてほしい。」
青島の言葉にカッとなった王は、思わず『不是!』と叫んでいた。
「イマ、アナタニアウゲンキ、ミキサンナイ。イッショニカエルト、ヤクソクシマシタカラ。」
「待て、誤解なんだ。話をすれば分かる。」
王が事情を知っていると察した青島は、声を張り上げた。
「ワカラナイ。」
王が冷たく言い放つと同時に、アナウスのチャイムが鳴った。
それが合図だったかのように電話を切った王は、そのまま電源ボタンを長押ししてから、しばらく携帯の画面を眺めていたが、大きく深呼吸をすると、待合室へ戻って腰を下ろした。
すると未来が入って行った診察室のドアが開いて、看護師が出てきた。
「中西さんの付き添いの方はいらっしゃいますか。」
そう呼びかける看護師に向かって、王が手を上げて合図をすると、看護師は安心したように微笑んでみせた。
「中西さん、点滴をして様子を見ることになったので、処置室に移動します。付き添われますか?」
王は、ハイと頷くと荷物を手に持って、看護師の後ろをついて行った。
話すことも会うことも今は無理だ、と青島に言ってやりたい気分だった。
一方、再度電話を掛けた青島には、機会的なアナウスが聞こえてくるだけで、つながることはなかった。
くそっ、と未来の家の前に止めた車の中で、携帯を助手席に放った青島は、ハンドルの上で両手を組むと、項垂れてしまった。
こんなことになるなんて、予想もしていなかった。電話で話すと誤解されかねないと思っていたのに、それが間違いだったのか。
そもそもなんでアイツといるんだ?
いつもそうだ。
未来に何かある時にそばにいるのは、あの男だ。
そしてそれが偶然だと言うことが面白くない…、いや落ち合っていたとなると、それはそれで言語道断なのだが。
思いのほか動揺している自分自身に気付き、一旦落ち着こうと運転席のドアを開けて外に出た。
この辺りで会ったのなら、家に戻っているのではないか。
だが人の気配は感じられずに、他に2人が会う可能性がある場所とすれば…と考えた青島は、慌てて運転席に乗り込み、携帯を手に取った。
数回のコールの後に電話に出た田村に、青島は仕事中かと尋ねた。
「今日は遅番で、準備をしてるところだよ。どうした?」
「お前のところの王くんは、今日は仕事か?」
平日の真昼間に電話をかけてきた青島の、予想外の質問に、田村はへっと間の抜けた声を出した。
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