相対

3/5
前へ
/5ページ
次へ
「本人とは話せてない。もう一度、電話での様子を聞かせてくれないか。」 はい、と頷いて、麻里子は未来とのやり取りを、青島に話して聞かせた。 電話では未来から連絡があったと聞くと、話もそこそこに電話を切ってしまったのだ。 「登録のない番号だったから、社長にお知らせしようと思って電話したんですけど、繋がりましたか?」 麻里子に聞かれて、青島は顔を歪めた。 「携帯の主は共通の知り合いで、本人とは話せなかった。無事なのが分かって、とりあえず会社に戻ってきたんだ。ありがとう、仕事に戻ってくれて大丈夫だ。」 その表情を見る限り、とても大丈夫とは言えない様子だったが、これ以上のことを詮索するのは、はばかられてしまい、麻里子は渋々自分の席に戻った。 ひとりになった青島は、目の前のパソコンを睨みつけると、電源ボタンを押した。 気を紛らわすために仕事をするなど、今までならあり得ないことだったが、闇雲に動き回るよりも会社にいた方が何らかの連絡があるのではないかと思い、戻ることにしたのだ。 出張の間に溜まっていた処理を片付けているうちに、どれくらい時間が経ったのか、社長室のドアをノックする音が聞こえて、涼子がドアを開けて顔を覗かせた。 「今日はすまなかったな。仕事はどうだ?終わったか?」 「ええ、無事に。あとは石原さんが完璧にしてくれます。楽しみにしてて下さい。」 「そうか。中西のコピーは使えたんだな。」 「ええ。意図していたものとは違っていたけど、シンプルで良かった。最終的にそこに行き着くまでの話を、本人の口から聞けなかったのは残念だけど、結局そう言うことなんだって、みんな納得しました。」 涼子の自信に満ちた表情に、青島は安堵する。 「これは社長に預けておきます。」 涼子は青島の机に前まで近づいてくると、未来のパソコンケースを青島に手渡した。 「責任持って預かるよ。ところで吉田に連絡は来てないのか?中西は吉田の携帯番号を聞いていたらしいが。」 涼子は首を振った。 「麻里子から聞いた。残念ながらまだないよ。雨に濡れて、風邪でもひいてなければいいけど。」 「社長も知っている友達?と一緒なら、具合が悪ければ、薬くらい買ってきてくれるだろうから安心か。」 青島がオフィスに戻って来た理由(わけ)を、そんな風に捉えている涼子に、曖昧な笑みを浮かべた青島は、ああっと声を上げた。 「そうか、病院だ。」 勢いよく立ち上がった青島は、急いで帰り支度を始めた。 「ありがとう吉田。悪いな、先に出るぞ。」 未来のパソコンケースを手に、勢いよくオフィスを出て行く青島を、涼子は呆気に取られて見送った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加