相対

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濃い灰色の雲が未練がましく居座る青い空の向こうは、オレンジに染まりつつあった。 全身に沈み込むような重さを感じるのに、油断すると腕の力は抜けていきそうで、しっかりとハンドルを握りしめた。 目の前で倒れた未来の気丈に振る舞う姿に、これまで抱いたことがなかった感情が芽生え、守ってやりたいと支えてやりたいと思った気持ちは、一緒にいればいるほど強くなるというのに、そんな俺自身がまた傷付けてしまった。 車を病院の駐車場に止めると、青島は走った。 診療受付を終えたカウンターには、ロールカーテンが下され、それを横目に見ながら、青島は迷わず内科に向かい、受付に人がいるのを見て、青島は声を掛けた。 「すみません。こちらで中西未来さんという女性が診察を受けていると聞いたのですが、まだいますか?」 「あぁ中西さんなら…。」 カルテの整理をしていた看護師は、青島の勢いに思わず返事をしかけてから、訝しむような表情になった。 「失礼しました。中西の元上司でして、現在も仕事を依頼している最中なのですが、体調を崩したようだと部下から聞きまして。」 青島はそう言って、名刺を差し出した。 看護師は名刺を確認すると、安心したのか笑顔になった。 「そうでしたか。中西さん、ここ2、3日まともに寝ていなかったようで、朝から体調が悪かったみたいですね。それなのに雨に濡れてしまって発熱して…。」 「でも点滴を終えて、部下の方?と今しがた帰りましたよ。台湾の方が親切だって、本当なんですね。凄く心配そうに付き添っていて、家も近所らしいから安心ですね。」 看護師の話に、引きつりながらも笑顔を浮かべ礼を言うと、青島は急いで病院を後にした。 今日がプロジェクトの締めとは聞いていたが、眠れないほど切羽詰まっていたのか。 出張前に会えないと言われて、不機嫌になった自分を思い返して、甘えているのは自分の方じゃないかと恥じる。 いや、決して今回に限ったことではなく、自覚はあるのだ。 この腕に抱き締めて、閉じ込めて、思う存分甘えてくれたらと願う、どうしようもなく沸き起こる独占欲。 だから全くの誤解とはいえ、傷付けてしまった未来の側にいるのが、他の男というのは耐えられないことだった。 いつものコインパーキングに車を止め、未来の部屋から明かりが漏れているのを確認して、安堵した時だった。 玄関のドアが開いて、中から出てきた王の姿を見た青島は、愕然とした。
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