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青島が立っていることに、すぐに気付いた王は、胸ぐらに掴みかかると絞り出すような声で責めた。
「ドウシテ、コンナコト。ミキサンノコト、アンナニ、キズツケテ。」
王の悲痛な表情に、気圧されそうになりながらも、その肩を掴んだ青島は、負けじと声を荒げた。
「落ち着け。誤解なんだ。とにかく未来と話をする。」
立ちはだかる王を押しのけようとしたとき、玄関のドアが開く気配がして、青島は思わず、
「未来っ!」
と叫んでいた。
「…静かにして下さい。未来、やっと落ち着いて寝たところなんです。先に、私たちに話を聞かせて貰えませんか?」
振り返った王の後ろに立っていたのは、綾香だった。
「佐々木さん…。」
驚いた様子の青島に、綾香は言った。
「慎君から連絡があったんです。未来の具合が悪いって王くんから電話があって、部屋に入るわけにも上に連れて行くわけにもいかないから、私に来て欲しいって言ってるって。」
「訳が分からなくて、とりあえず早番だったから仕事終わって急いで来たんです。」
綾香の話を聞いて、目の前にいる王の顔を見た青島は、その肩から手を離して言った。
「すまなかったな。ありがとう。」
落ち込む青島に、相変わらず王の表情は険しいままだったが、綾香は釈然としない様子で口を開いた。
「社長様、上に行きませんか。未来には目を覚ましたら何時でもいいから連絡するように言ってます。」
綾香はそう言って、未来から預かった鍵でドアを締めた。
そして二人を促して階段を上がると、足音に気付いた清瀬が、玄関のドアを開けて待っていた。
「先輩、大丈夫?」
綾香に向かって声を掛けた清瀬は、青島の顔を見るなり笑顔になった。
「青島社長も来てくれたなら、安心ですね。」
事情を知らない清瀬の言葉に、一様に複雑な表情になった3人を見て、清瀬は戸惑いを見せた。
ひとまず居間の真ん中にある、年季の入ったダイニングテーブルに皆を座らせると、綾香が口火を切った。
「私、信じられません。社長様があんな女に引っかかるなんて。」
いきなり核心をついた綾香の言葉に、清瀬は驚いた様子で自分の恋人と青島の顔を交互に見つめた。
しかし青島は眉間に皺を寄せ、何やら考えている。
「もしかして佐々木さんは、松本さんを知っているの?」
「はい。以前うちのテナントビルに、事務員として派遣で来てたことがあるんです。」
「そのことを未来とは…」
青島の質問に、綾香は松本明穂について、知っていることを全部話した。
青島は少なからずショックを受けた様子で、綾香が話終わると、昨日からの出来事を皆に話して聞かせた。
青島の話が終わると、王は堪らず立ち上がり青島に向かって頭を下げた。
「ゴメンナサイ。ボクガチャントハナシキケバ、ミキサン、モットハヤク、アンシンデキマシタ。」
そんな王の肩に、青島は優しく手を置いた。
「君の誠実な所には、感謝しかない。正直、男として妬けるところはあるが。」
漂っていた重苦しさから、ほっとした雰囲気に包まれると、綾香が言った。
「早く未来も安心させてあげなきゃ。」
青島は、立ち上がった綾香を見上げると
「会わせてくれるかな。」
と唇の端を僅かに上げた。
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