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処女は、先輩に捧げたつもりも、棄てたつもりもない。
処女を捧げるだの、棄てるだの、そういった表現には違和感を抱く。
仮に私が先輩を好きだとしても、自分自身の何かを捧げる気は毛頭ない。
棄てるといった不要物のような表現も、私の躰に失礼だ。
処女であったことを恥じてはいない。
それは決して恥じるようなことではない。
―――先輩と私は合意の上でセックスをし、私は処女ではなくなった。
これが適切で、間違いのない事実。
私は先輩に対して付き合って欲しい、みたいな感情はまったくなかった。
好きでもない。
嫌いでもない。
ただ、初めての相手として適切な人を選んだ。
それなのに先輩は、タオルで髪を乱雑に乾かしながら「付き合ってみない?」と言った。
「―――私、初めてだから責任とってください、なんて言いませんよ。
安心してください」
眼鏡をかけながらそう言うと、先輩はベッドに腰を掛け、顔を近付けてきた。
近くで見る先輩の眼は、やはり狂っていた。
暗く淀んだ、濁った沼のように底が見えない。
油断をしたら、容赦なくそちら側に引きずり込まれていく。
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