242人が本棚に入れています
本棚に追加
「責任感で付き合おう、なんて言わないよ」
「じゃあ、どうしてですか」
「……興味が、湧いたのかな。
初めてでこれなら、もっと愉しくなりそうだから」
「―――もっと、愉しく?」
「うん。漆原さんも、好きでしょう。愉しいこと」
好きだとか愛してるだとか、お互いにそんな甘ったるい感情はなかった。
先輩と私は、利益の一致で付き合い始めた。
―――この人となら、きっと愉しい。
それが理由。
単純で明確。
とてもシンプルな理由。
先輩と私の相性はよかった。
よかったと言っても、先輩以外に経験のない私には比較対象がない。
けれど、気持ちがいいのは紛れもない事実だった。
ふわふわ、くらくら。
真っ白に染まっていく―――。
突き抜けるような、解き放たれるような快楽は、私を虜にさせた。
一人暮らしだった先輩と私は、お互いのアパートを行き来した。
休みの日は朝から晩まで一日中、食事もせずに躰を貪り合った。
「うちのアパート、壁が薄いんです」
そう言うと、先輩は荒々しく抱いた。
声を抑えれば抑える程、先輩は血色のいい唇を歪ませて笑う。
「……先輩、ちょっと休ませてください」
「疲れちゃった? 俺より若いのに」
「先輩はどこにそんな体力があるんですか」
「粧子が、そうさせるんだよ」
気が付くと先輩は、普段は私を粧子ちゃんと呼び、ベッドの中では粧子と呼ぶようになっていた。
私はずっと、先輩と呼び続けた。
最初のコメントを投稿しよう!