一 致

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一応、映画館や水族館のような、お決まりのデートも一通りした。 けれど先輩と私が一番盛り上がるのは、決まって帰宅してからだった。 ―――ずっと我慢してた。 ―――映画なんてどうでもよかった。 ―――今度、映画館のトイレでしようよ。 ―――映画の、最中は? そんなことを言い合いながら、アパートの玄関で始める。 そうやって言い合う方がお互い興奮するということは、言葉で確認を取らないでも躰でわかっていた。 先輩と私のデートは前戯だ。 たまに大学の構内を一緒に歩くと、周りからの視線が刺さった。 自分でもわかっている。 先輩と私ではとても釣り合わない。 もっと(きら)びやかな子の方が、先輩の隣には間違いなく似合う。 「先輩が他の子と関係を持っても、私は構いません。 ただ、病気とかそういうリスクが………」 「粧子ちゃんと愉しんでるから、俺は」 私を好きなわけでもないのに、先輩はこういう気遣いも出来る。 確かに、先輩も愉しんでいるようには見えた。 セックスを盛り上げるようなものを買い揃え、私が悦ぶ方法を探るように、確かめるように動く。 私も先輩と同じように、先輩が悦ぶ方法を試行錯誤した。 先輩は私がそうする度に褒めた。 そして、その方法が間違っていれば正す。 決して偉そうにではなく、丁寧に。 ゆっくり、じっくりと。 「俺の女」「俺が初めての男」「俺が抱いてやる」 そういう顔は、一切しない。 私がそう指摘すると「粧子ちゃんも、俺を愉しませてくれてるから。俺に抱かれてるだけじゃないでしょう」と言った。 私は、いい相手と出会えた。 お互いに甘ったるい感情はなくても、求めていたものは満たされている。 それに、そもそも私は甘ったるい感情を求めてはいない。
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