242人が本棚に入れています
本棚に追加
一応、映画館や水族館のような、お決まりのデートも一通りした。
けれど先輩と私が一番盛り上がるのは、決まって帰宅してからだった。
―――ずっと我慢してた。
―――映画なんてどうでもよかった。
―――今度、映画館のトイレでしようよ。
―――映画の、最中は?
そんなことを言い合いながら、アパートの玄関で始める。
そうやって言い合う方がお互い興奮するということは、言葉で確認を取らないでも躰でわかっていた。
先輩と私のデートは前戯だ。
たまに大学の構内を一緒に歩くと、周りからの視線が刺さった。
自分でもわかっている。
先輩と私ではとても釣り合わない。
もっと煌びやかな子の方が、先輩の隣には間違いなく似合う。
「先輩が他の子と関係を持っても、私は構いません。
ただ、病気とかそういうリスクが………」
「粧子ちゃんと愉しんでるから、俺は」
私を好きなわけでもないのに、先輩はこういう気遣いも出来る。
確かに、先輩も愉しんでいるようには見えた。
セックスを盛り上げるようなものを買い揃え、私が悦ぶ方法を探るように、確かめるように動く。
私も先輩と同じように、先輩が悦ぶ方法を試行錯誤した。
先輩は私がそうする度に褒めた。
そして、その方法が間違っていれば正す。
決して偉そうにではなく、丁寧に。
ゆっくり、じっくりと。
「俺の女」「俺が初めての男」「俺が抱いてやる」
そういう顔は、一切しない。
私がそう指摘すると「粧子ちゃんも、俺を愉しませてくれてるから。俺に抱かれてるだけじゃないでしょう」と言った。
私は、いい相手と出会えた。
お互いに甘ったるい感情はなくても、求めていたものは満たされている。
それに、そもそも私は甘ったるい感情を求めてはいない。
最初のコメントを投稿しよう!