242人が本棚に入れています
本棚に追加
肌寒くなってきたある日、兄が急にアパートに泊まりに来ることになった。
コンサートの帰りで、終電を逃してしまったと言う。
どこかのアイドルグループのコンサートグッズとコンビニデザートを下げてやってきた兄は、一昨日、先輩と私が愉しく過ごしていたソファーに座る。
「お兄ちゃん、来るのはいいけど事前に言ってよ」
「ごめんごめん。なに、彼氏でも来てたん?
俺、会ったらちゃんと挨拶出来るよ。
粧子のお兄ちゃんでーす、どこの馬の骨ですかー、って」
「いないよ、彼氏なんて」
「せっかく大学生なんだからさー。
もっと楽しめよ、合コンとか。
アプリとかは……ちょっと心配だな。
どこのどいつか、わかんないわけだろ?
やろうと思えば、身分なんかいくらでも詐欺れるだろうし。
やめとけ?」
「はいはい」
私の兄は、よくしゃべる。
コンサート帰りなら、もっと疲れているものなんじゃないだろうか。
それともコンサート帰りだから、テンションが上がっているんだろうか。
どちらにしろ、とても自分の兄だとは思えない。
兄と私は性格も顔も似ていない。
「お前が事件にでも巻き込まれたら、親父もお袋も、どうなっちゃうかわかんねぇし。
気をつけろよ」
「そうだね」
両親が心配するのは私のことなんだろうか。世間体なんだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!