一 致

7/46
前へ
/190ページ
次へ
翌日の昼過ぎ、兄が帰ると入れ違いに先輩がアパートに来た。 連絡もなしに先輩が来るのは珍しい。 様子もいつもと違う。 もしかしたら怒っているのかもしれない。 昨日はもともと、先輩が泊まりに来る予定だった。 『たのしそうなものを買ったから、早く一緒に使いたい。 バイトが終わったら、しょうこちゃんのところ行くから』 そうメッセージがきていた。 なのに、兄が泊まりに来たいと言い出した。 断りでもしたら、絶対に両親に怪しまれる。 きっと突然アパートに訪ねてきて、彼氏がいないか探りを入れられる。 もしかしたら、合鍵で勝手に部屋に入るかもしれない。 私の両親は、そういう両親だ。 プライバシーなんてものはない。 だから先輩には、土壇場になって断りの連絡をした。 「急で申し訳ないですが、キャンセルさせてください」と。 先輩からは『わかった』とだけ送られた。 あとで先輩には謝罪の電話をしようと思っていた。 だけど兄がなかなか帰らず、連絡出来ずにいた。 怒られても仕方がない。 「昨日は急に断ってしまい、申し訳ありませんでした」 急に兄が泊まりに来ることになったんです、と私が言うよりも先に、先輩は私をベッドに押し倒した。
/190ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加