〜プロローグ〜

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------------------- その夜の8時頃、バイトを終えて賃貸マンションまで帰ってみると、既に引越し業者は撤収し、周りはいつもの平穏を取り戻していた。 ふと玄関前の道路から部屋のある三階を見上げてみると、301号室から308号室まであるうち、僕の部屋である301号室から305号室までの部屋の明かりはついていない。 とはいえ、普段なら誰がいるかいないかなんて、気に留めるようなことでもない。 このワンルームマンションは、近隣の他の同じ規模のマンションと比べると多少古く狭い部類に入る。 なので入居者を幅広く集めるためか、「学生向け」とか「社会人向け」などと明確に区分せず、結果的に様々な境遇の人が住む“ごった煮”のマンションとなっている。 だから入居者は、僕のような学生や若い社会人だけでなく、単身赴任のおじさんや、202号室のように独居老人の方も住んでいる。 通路やエレベーターで会釈するくらいで、それ以外は誰がどこで何してようと気にすることもないし、202号室のお爺さんを除けば、他人に干渉するようなことも、ほとんどない。 でも、今日隣に引っ越ししてきた人がいるのなら、気になってしまうのが人間の性というもの。 とりあえず、302号室に明かりがついていないということは、不在なんだろう。 ---どこかに出かけているんだろうな。 僕がそう思いながら自分の部屋に帰って鞄を置いた直後、僕の部屋のインターホンがけたたましく鳴った。 鳴ったのは、一階玄関エントランスにある集合インターホンではなく、部屋の入り口に直接つけられてる方のインターホンだ。 ---お隣さんかな? 部屋の入り口ドアのインターホンを押すということは、既に集合インターホンのロックを通過して中に入っているということで、このマンションの住人に違いない。 であれば、こんな時間に訪ねてくる可能性のあるのは、新しく越してきた隣の人だろう。 そう思った僕は、迂闊にもインターホンで訪問者を誰何(すいか)することなくドアを開けた。 ---開けなかったら、違う未来を生きてたんだろうか。 僕はこの日のことを思い出して、時々こんな空想する。 僕は、すぐドアを開けてしまったことで、彼女に振り回される日々が始まることになるなどとは、この時は思いもよらなかった。 やっぱり僕は…この人が嫌いだ。
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