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ドアを開けると、そこにいたのは、僕と同世代か、少し歳上に見える、小柄で可愛らしい女の人が立っていた。
その女の人は僕の顔をマジマジと見つめたあと、ホッとしたかのように一息吐くと、一方的に喋り始めた。
「ああ良かった。隣が若い男の子で。
このマンションの隣の部屋、両方とも誰も居ないから、空き部屋かと思って困ってたんだ。
さっき早速誰か尋ねてきたと思ったら、下の部屋に住んでるって言うお爺さんだったし。
ねえねえ、キミにお願いがあるんだけど。
あのね。今日隣に引っ越ししてきたばかりなんだけどさ。
電気がつかなくて困ってんの。
明るいうちは良かったんだけどさ。
暗くなってきたらそういうわけにもいかないし。
引っ越し屋さんに聞こうと思ったけど、荷物も少ないから、すぐ帰っちゃったし…。
だから真っ暗な部屋で、隣の人が帰ってくるの、ずっと待ってたんだ。
キミの部屋の電気ついてるから、この階だけ停電してるとかってこともなさそうだし。
ねえ少年。ボクの部屋の、配線?ブレーカーっていうの?、ちょっと見てくれないかな?」
「あ、はい…」
「ああ、ごめん。まだ名乗ってなかったね。ボク、ユキっていうんだ」
「あ、はい…」
自分のことをボクと言い、ユキと名乗ったその女の人は、そう言った後、不思議そうに僕を見つめている。
「あの…何か?」
「ボクが名乗ったんだから、キミも名乗ろうか?」
「ああ、はい。加賀拓哉です」
「へえ、高校生?」
「いや、大学…」
「ウソウソ。はいウソー。そんなウソはいいから…。
おっと、そんなことより。ちょっと少年!ブレーカー見てみてよ」
僕は半ば引き摺り出されるかの如く、真っ暗な隣の部屋に連行された。
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