会場

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「いってぇ……ックシュ!」 簡易のPCR検査や様々を済ませて、会場に入る。 他にも様々な対策が取られていて僕のような下っ端は入り時間が随分と遅くなっていた。 「おはようございます!」 「あ、矢内くん!ちょうどいいとこに来た!」 廊下を進むと、リーダーに早速お仕事を言い渡されたので、荷物も背負ったまんまで渡された紙袋を手にモタモタとイヤモニを装置しながら廊下を進む。 差し入れやケータリングなんかは以前であれば当日のバイトの子に頼んでいたけれど、なるべく少人数でとてんやわんやな今回は自ら届けに行く。 「こういうの、なんだか懐かしいなぁ……」 日雇いのバイトをしていた頃を思い出して懐かしい気分になりながら、正社員とはいえ今回現場に立つメンバーに選んでもらえた事はきっと運なのだろう。さして出世のない自分がココにいる事をなんだか不思議に感じて、今日への気合いが入る。 「お、差し入れだー」 「あ、おはようございます!はい、〇〇さんから差し入れです!」 物を置いて紙を貼って……としていると、以前のようにワラワラと人が集まらないながらも演者さんたちがソワソワとこちらを眺めている。 「美味しそう。こういうのお抹茶とのんびり食べられたらいいよねー」 主な演者さんもちょうどいらしたのでご挨拶をしながら準備をしていると、何気ない一言が自分には大変なのだろう今のボヤきのように聞こえて……って、お抹茶?……あっ! 「あ!あります!お抹茶!」 「へ?」 家を出たところで休憩時間に食べようとお気に入りのマフィンを買うつもりだったのだが、先客がいて諦めた……時に、その先客さんにお菓子の詰め合わせをいただいていた。 クッキーや飴と共に詰め合わせの袋に抹茶ラテが入っていた事を思い出したのだ。 「来るときに寄ろうと思ったお店が混んでて……よっと、そんで前のお客さんに貰った中に……あった!はい、これ良かったら!」 説明も疎かに鞄の中を急いで漁る。 「えー、奇跡じゃん!」 「いいの?ありがとう!」 「すごー!」 周囲とキャッキャと盛り上がってくださってる間に、手元をじっと見られて少しばかり緊張しながらも包みを開けて中から抹茶ラテのスティックを取り出してお渡しした。 「はい!」 「ありがとう、大切に味わって飲むよ。矢内さんも、楽しんでね」 「えっ!?あ、スタッフ証!?は、はいありがとうございます!」 先程じっと見られていたのはスタッフ証だったのかと思い、名前を呼ぶそういう細かな気遣いがこうしてすごいステージを作っている人なのだと知らされた気がして。自分も楽しもうと再度気合いの入る思いで廊下を急いで戻った。
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