お友達

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ーてれれてててん 「はぁい、もしもーし?」 『あ、おはよー』 「うん、おはよう!」 今日はソワソワとしてしまっていて、朝から友達とSNSでやり取りをしていた。 通話は、その子からだった。 「どうしたの?集合までまだあるじゃん」 『だよねー、暇だしソワソワするし!』 「あはは、本当にねー」 挨拶を交わしながらイヤホンを耳にさして、友達との長電話のスタンバイをする。 『やっぱ開演前に何か食べておきたくない?私ぜったいお腹鳴っちゃうよぉー』 「んー、いつもならそうしてたのにねぇ……」 『ココ、今送った!』 「え、何ー?」 『なんかねー、美味しそうなテイクアウトがあったの!』 「えー、会場近くは混むでしょー?私心配だよぉ……」 そう、私はいわばオタクというやつで、彼女とは今日久しぶりの公演に共に参戦するのだ。 なんせこんなご時世、ここ数ヶ月は推しのためにと様々に気を配って過ごしていた私は、半ば私に合わせて同じように気をつけて過ごしてくれている友達に少しばかり言い淀む。 『って言うと思ってさ、乗り換え駅んとこのお店!』 送られてきたURLを開くと、カフェのテイクアウトデリが表示された。 1番好きな舞台も、推しも、性格だって全然違うけれど……作品やグループが被る事が多い私たちはそこそこの付き合いで、最近はこうして私の事を気遣ってくれている。 もちろん私も彼女に合わせられる部分は合わせているけれど、お互いにそこは無理をしない範囲で合わせられない事には素直に嫌と言っても”そっか”とアッサリ流したり別の案を出し合えるから心地よい。 「え、メインがマフィンとホットケーキ?」 『そう!それとサラダのセット!美味しそうじゃない?』 「えーっ、甘いのとしょっぱいのどっちもとか、有り難みがすごい!」 『でしょ!?パンケーキの方なら手使わないし、乗り換えんとこなら……いくない?ダメかなぁ?』 前までは朝イチから一緒にいて、あちこちを買い物したりカフェでお喋りをしたりして過ごしていたから……今回は私にたくさん譲歩してくれた彼女なりのちょっとしたワガママのつもりなんだろう。 「そうだね!ちょっと集合早めて食べたい!ねー、ココなら確かあの神社近くない?」 『あ!ドラマの!』 「そーそー!」 彼女の最推しが以前ドラマで撮影した、いわば聖地のひとつ。 と言っても、シーンに使われたのはほんの少しで……以前一緒に行ったときに私の方がそこの雰囲気を気に入ってしまっていた場所なんだけど。 聖地として名高いって場所でもないから、きっとそう人も多くないと思うし……黙食すればいいかな? 『やったー!めっちゃ嬉しい!』 「ん、楽しみだね!」 私自身がここの所の窮屈な生活だったり今日のソワソワ感を解したい、どこか落ち着きのない気分なんだなぁと気付かされて彼女の提案に乗ることにした。 『うんっ!じゃあまた後でね!』 準備をしながら会う瞬間まで通話を繋げっぱなしだった昔とは違って、多分当たり前なんだろう通話の切り方をして支度に取り掛かる事にもいつの間にか慣れてきていた。 出かける前にもう一度と今日はやっぱりいつもより神経質になって体温を測って、職場の自販機用の小銭入れをカバンに追加した。
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