6人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっと、待ってください!わたし今までそんなの見えなかったんですよ?!いきなりそんなこと言われても受け入れられません……!」
魔なんて今まで一度も見たことなかったわたしだ。いきなりそんなこと言われても飲み込めるわけがない。情報量の多さに頭が一杯いっぱいだ。
「そんなこと言ったって、怨霊(そいつ)が危険なことには変わらない。だったらさっさと腹くくった方が、自分のためだと思うけど?」
ぎゅっと拳を握る。
「……せめて少し、考える時間をください。まだ、頭の整理がつかなくて………落ち着いて考える時間がほしいです…」
伏し目がちでそう言うと、男は「ふーん」と言い、ポケットから何かを取り出す。そしてその上にさらさらと線を走らせ、
「じゃあ決まったら連絡くれ」
そう言い残し、後ろ手で手を振りながら立ち去っていった。渡された紙を見ると電話番号のようなものが書かれており、これに連絡しろということだろう。
特に何も考えずそれを鞄に入れ、もやもやした気持ちで家に帰る。
その日の晩、ずっと考えた。するとつい皿洗いのときも手が止まり、蛇口の水を流しっぱになっていた。
「いかん、注意力散漫になってる。しっかりせねば……」
と思ってもまたいつの間にか手が止まっている。まるで思考に霧がかかっているようだ。
「はあ……駄目だ……。今日は早く寝よう」
もう考えても仕方ない。切り替えよう。すぐさまわたしは布団に入ったが、やはり思考は定まらない。余計なことばかり思い出してしまう。男の発言数々。あまりに突然降ってきたそれが頭に占めて、モヤが晴れることはなかった。
最初のコメントを投稿しよう!