カタルシスのかなたに

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「ちょっと、待ってください!わたし今までそんなの見えなかったんですよ?!いきなりそんなこと言われても受け入れられません……!」 魔なんて今まで一度も見たことなかったわたしだ。いきなりそんなこと言われても飲み込めるわけがない。情報量の多さに頭が一杯いっぱいだ。 「そんなこと言ったって、怨霊(そいつ)が危険なことには変わらない。だったらさっさと腹くくった方が、自分のためだと思うけど?」 ぎゅっと拳を握る。 「……せめて少し、考える時間をください。まだ、頭の整理がつかなくて………落ち着いて考える時間がほしいです…」 伏し目がちでそう言うと、男は「ふーん」と言い、ポケットから何かを取り出す。そしてその上にさらさらと線を走らせ、 「じゃあ決まったら連絡くれ」 そう言い残し、後ろ手で手を振りながら立ち去っていった。渡された紙を見ると電話番号のようなものが書かれており、これに連絡しろということだろう。 特に何も考えずそれを鞄に入れ、もやもやした気持ちで家に帰る。 その日の晩、ずっと考えた。するとつい皿洗いのときも手が止まり、蛇口の水を流しっぱになっていた。 「いかん、注意力散漫になってる。しっかりせねば……」 と思ってもまたいつの間にか手が止まっている。まるで思考に霧がかかっているようだ。 「はあ……駄目だ……。今日は早く寝よう」 もう考えても仕方ない。切り替えよう。すぐさまわたしは布団に入ったが、やはり思考は定まらない。余計なことばかり思い出してしまう。男の発言数々。あまりに突然降ってきたそれが頭に占めて、モヤが晴れることはなかった。
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