カタルシスのかなたに

7/14
前へ
/14ページ
次へ
「やっぱり居やがったな、不審火の犯人!」 表は目を爛々と光らせる。鋭い眼光から湧き上がる熱量を感じるのに瞳の奥はひどく冷たい。彼は手元を持ち上げると、煙は形も残さず消えた。まるで目の前で一陣の風が吹き抜けたように。 「あれが…“魔”……?」 現れたのは、一体の鳥。いやカラスと言うべきか。カラスにしては巨大すぎるし、それは三つ目(みつめ)であった。不死鳥のごとく大きな翼を羽ばたかせているそれは墨を塗ったように黒々と光り、羽の内側に渦を巻いたような形の円がまだらに散りばめられている。どこか複数あるそれが瞳に見え、こちらを見ているのではと恐ろしくなった。 「ああ、人の姿をしていないが“魔”だ。お前の怨霊とは違って強力なやつじゃねえから動物の形しか取れなかったんだろうな」 「グ、ギ、ギャァァア…………!!!」 空気が振れるほどの獰猛な雄叫び。羽をひと際大きく広げたそいつは風を巻き込み突撃してくる。 「おっ、おもてさん………っ!」 「所詮人の形も取れないような雑魚風情がよ…っと!」 焦って声をかけたわたしに、即座に後ろに飛び去り手をかざす。同時に青白い光が迸った。 天井から降り注ぐ幾重の電撃、それは雷(いかずち)のようだ。思わず回避が間に合わず羽に数発食らった魔の鳥だったが、高く飛び上がり正面に風を送るように羽を強く羽ばたかせた。それに合わせて見えたのはこっちに襲い掛かる火球たち。 爆発音が鳴り響く。息を止めていた私は目を開くと 「なるほどな。そうやって爆発させてたわけか」 周囲を光の膜が覆いかぶさっていた。炎々と蠢く噴煙もその障壁の前でせき止められている。中心にいる表は余裕そうな笑みを浮かべて佇んでいた。 「でも残念だったな。相手が悪すぎた」 圧倒的な強者の出で立ちで告げたあと、周囲は光に包まれた。さきほどの“魔”とは比較にならない強烈な輝き。目が潰されそうなその眩しさに、更に振動が加わった。 足元から崩落ちそうなほど校舎を襲う強い地震。 『ドゴゴゴゴゴォォォォォンンン………!!!』 揺れは暫く続いていた。わたしは唖然とするしかなかった。 まさに昨日感じた現象。その人智では図れない何かが起こっていた。もはや認めるしかない。人の世の理では理解できない超常的なものが存在していると。 「グギャァァ、ア…………」 揺れが収まると地には“魔”が倒れ伏していた。その体の所々は焦げつき、羽も抜け落ちている。再起不能と思われた。 「加減したとはいえまだ生きてんのかよ。タフだな、お前」 しかしそうでもなかったらしい。表は若干呆れが混じった声で“魔”を見下す。 「まあ一応強化されてる“魔”だもんな」 自然な足取りでその“魔”に近づいた。 「ちょっと…!?大丈夫なんですか」 未だプルプルと震える“魔”を見て思わずそう声をかけるが、彼は大丈夫大丈夫と言って気に留めない。ヘラヘラとした笑みで近づく彼を後ろから眺めていたとき、 『シュパァンッッッ!』 行く手を矢が塞いだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加