まちぶせ

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まちぶせ

「お、お願いします。か、加菜恵さん。」 「やだぁ…香帆でしょ~平田君」 わたし…大学4年生。ソープランドでバイト中。わたしの妖艶な肉体美に、腹を空かした猛獣どもが爪先から品定めをして価値を付けて行く。 しとやかな和風顔と身体は不一致。妖艶な肉体から溢れ出す情欲に、いつしか男は本能のままにわたしに貪りつく。足元を見てふっかけるわたしは小悪魔。 しかしこの男だけは違う。 本当のわたしを…知っている…。 「今から本番入りますっ。」 「香帆…エッチしすぎだよ。信じらんない。」 「あんたみたいな人には、この快楽がわからないわ。それにお金必要なんでしょ?」 「まあ…それはね。海外に浩ちゃんと行くつもりだけど。無理しないでね。」 「さあて1人目は…平田君か…お金はないけど客だから…。」 わたしは仕事を終え華やかな服から、Tシャツとジーンズに着替えていた。普段は地味で目立たない。 銀座のソープランドを出ると、パパがすぐ手を握ってきた。 「おい。…何人に股開いたんだ?」 パパは私の身体をそのギラギラした腕で引き寄せた。Tシャツをめくりジーンズの中に、おもむろに手を入れてきた。 「このアマ!こんなに濡らして!こいつめ!」 そう、言うと、その手を私に嗅がせた。そしてその手を舐め回した。グイッと私の細い腰をよせると首筋にそのチクリとする髭を押しあて、ゴリゴリと舌を這わせてきた。わたしはあの時から私物…物でしかない。 「…パパ…やめて……ここは。いつものところで…ね?」 パパの胸元から、チラリと覗く竜の髭が見え隠れした。ベンツの後部座席に強引に座らせられる。そしていつものあの場所に行くのよ。誰も住んでない…あのボロ小屋に。 浩ちゃんは私のスマホをいじり出した。 「加菜恵ちゃん。新しいパパがお迎えに来てますよ~」 初めて保育園にお迎えに来たのは、私が年長さんの時だった。 ママは看護士で忙しく、私を産んでくれたパパとはすれ違い離婚した。ママは育てられる経済力はあったらしいのか手元に置いた。 その後新しいパパが来て…それからずっと…ずっと…私はあなたに弄ばれた。 この小屋で…。 恐怖と屈辱の中で、その時生まれたのが『(たけし)』だった。 それから、パパの子供…わたしにとっての兄…和樹。 わたしが、中学生に入って間もない頃、布団に忍び込んできた男は……和樹だった。 何度も抵抗したけど…情けなくて…悔しくて。 その時、毅は和樹を殺めた。 そして…わたしより大きな声を出したのがパパだった。ずっと、わたしのその行為を見ていたのだ。 そして…発覚を恐れ…死体を遺棄し…行方不明届けを出した。 中学3年で産み落とした子供。 和樹かパパの子供かわからない娘…。 ママは、年の離れたわたしの妹として育ててる………。 わたしは…あれから…お迎えが一番嫌なの。わかるでしょ。 いつも勝手に来て、いい親ぶって…。 そう、わたしは…ひとりじゃないの。 毅の他にも…。 わたしの清純な肉体を汚された時に生まれた香帆。 いつも寄り添ってくれる、プラトニックな友達関係の浩ちゃん。 逃げる事しか出来なかった。 …パパ。 もう、お迎えはできないね。 だって、それじゃ立ち上がれないでしょ。 ストーカーの平田君が、包丁を持ってまちぶせしていたでしょ。 誰にも言えず過酷な世界で、寡黙に生き抜いたわたしは、ストーカーにより助けられた。 社会のルールに背く背徳行為は、偶然にも怨念の感情を持つストーカーにより暴力により終止符を打った。 逃れられない執着心と支配欲は、真っ直ぐにパパに向かい、わたしの持つ怨念とピッタリ重なった。 それを自業自得というのだろうか。 絶望を知り怒りはとっくに海の底に捨てていた筈なのに…呼び起こされたかのような怒りが全身を駆けめぐった。 …しょっぱい涙を何度も飲んだ。 やがて…男の変わり果てた姿に、その怒りは哀れみへと変化していった。 浩ちゃんいる? 加菜恵と一緒に外国行こう。 お金はあるよ。 終
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