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さて、大魔女リリイッシュに用があるらしい少年を、とりあえず招き入れる。
この少年から、リリイッシュの事やこの世界の事を聞き出せるかもしれない。
最初に目覚めた寝室に続くダイニングキッチンは、多分客人をもてなす為の部屋ではないが、屋敷の間取りが分からないのでそこに案内をした。
「えっと、お茶とコップはどこかなぁ?」
キッチンのあちらこちらは、美しい細工が凝らされた小瓶や鍋や壺で散らかっていて、本当にどこに何があるか分からない。
「あの、そこの食器棚にありません?」
少年が指さす方。カントリー調の白い食器棚にしっかりとティーセットが収納されている。
「ああ、そうそう、ここだった!」
うっかりしていた風に装ったが、ちょっと、白々しすぎる。
ティーセットを手に取る。
さて、今度はお茶っ葉と、ケトルの場所が分からない。
ああ、面倒くさい。
いっそ、ネタバレするか?
でも、彼がどんな人間なのかも分からないのに言っちゃっていいもんか?
「あの、お構いなく。いつもは使用人の方がされているのでしょう? 人嫌いのリリイッシュ様もたった1人だけ使用人を雇ってらっしゃるらしいと聞いたのですが、今はお使いに出られているのですか?」
「へ? ええ、まあ、そうですの? ホホホ……(口調 、これで合ってんのか?)」
話を合わせて見たが、よりいっそうモヤモヤが募る。これじゃあ分からないことが増えただけだし、やっぱり色々面倒くさい!
「あの、ごめんね銀髪おかっぱ美少年君。私、入れ物はリリイッシュって人なんだけど、中身は別人なんだよねぇ」
と、頭を掻く。少年は目をぱちくりさせた。
「えっと、どう言う意味です?」
私は、私の体験した事を順を追って説明した。話しているうちに私自身も、自分の身に起こったことを理解していく。
「そっか、私とリリイッシュの魂は、彼女の魔法で入れ替わったんだ」
ポツリとつぶやくと、少年は腕を組み頷いた。
「だからなんですねぇ。師匠は大の人間嫌いだと聞いていたのに、真逆な感じだったのは」
「人間嫌い? って言うかしれっと師匠呼びしてるけど、私魔法使えないよ?」
「そうなんですか? でも入れ替わる直前に本物のリリイッシュさんは、代わりに私が手に入れた全てをあげるって言ったんですよね? だったら師匠も魔法使えるんじゃないです? 試してみましょうよ!」
立ち上がって少年は、花が綻んだ様な眩しく邪気のない笑顔で私の腕に抱きついてきた。
ううわぁああ! なんだ、この可愛い生き物は!
私は辛うじて理性を留める。
「まま、待て少年。試すのは試そうと思うが、その前に君のことを聞かせてくれ。その、親御さんはこの事、私に弟子入りしようとしている事を、し、知っているのか?」
私の問いかけ方が気持ち悪かったのか、少年の瞳から輝きが消えた。そして俯いてポツリと言った。
「言いたくありません」
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