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私が知っている世界の摂理と同じく、この世界にも夜が訪れたことに、私は安堵した。
だが、結局、少年のことはタイラナという名前であること以外聞き出せず、追い返すことも出来ず、魔法の使い方も分からず、頼りの綱の、たった1人だけいると聞かされた使用人も帰ってこないので、不安だらけであることには違いなかった。
「詰んでんなぁ」
と、長い廊下を乾いたパンを抱えて歩きながら苦笑いした。
タイラナのお陰で分かったこともある。
この世界には名前がないということ。
そもそも、別の世界があるなんて発想自体がないようだ。(リリイッシュが認知していたのは彼女が大魔女だったからだろう)
そして、この国がコールナ王国と言う名前であること。
それから、こんな大きなお屋敷なら食料庫くらいあるだろうと言うこと。
「ほら、タイラナお腹減ったでしょ?」
テーブルに持ってきたパンを置くと、タイラナは、悲しそうにそれを見つめた。
「僕、こんな硬いパン食べられない」
何を贅沢な!
「水かミルクにでも浸せば食べられるでしょ?」
「そんなの人間の食べる物じゃないよ」
私は、思わず頬を引き攣らせた。
「じゃあ、食べなくていいけど?」
薄々思ってたけど、多分タイラナはブルジョワジーだ。毛並みは良いし、服も華美な装飾はないけど高級感がある。
苦労とかしたことないんだろうな。なんでそんな子が、こんな所に?
そんなことを考えながら見つめていると、タイラナの瞳が潤みだした。そして必殺の上目遣いだ!
「リリイッシュさんのイジワル」
グッときた!
グッときたけど、それズルくない?
「僕、もう寝ます」
タイラナは、言い捨てて、奥の部屋のベッドへ向かっていく。
「へ?」
私がポカンとしてる間に、タイラナはベッドに潜り込んで背を向けた。
「あ! ちょ、ちょっと」
え? これ、一緒に寝ていいんか?
いやいやいや! 首を振り邪念を払う。
「ああ、ほんと、これからどうしよう?」
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