0人が本棚に入れています
本棚に追加
はじまり はじまり!
家が金持ちなわけでもない。
美人なわけでもない。
頭が言いわけでも、運動が得意なわけでもない。
趣味はせいぜいオタ趣味があるくらいで、特別秀でた才能もない、そんななんの変哲もない女子高生。
名前は、雫。
だけど、私は人生が楽しいのだ!
私が私の人生が楽しいのは、ある人の影響ではあるのだけど、それより何より私がそう決めたからだ。
たった一度きりの人生、楽しんで楽しんで楽しみ抜いてやるんだとそう決めたのだ。
明日は休日。布団の中、予定をワクワクしながら頭の中で繰り返す。
――ああ、羨まし――
眠りにつく直前、ハッキリとそんな声が聞こえた。私は、パッと上体を起こしてリモコンで電気をつけて辺りを見回す。
「はっ!」
扉の前で立ち尽くすその人物に、思わず息を飲む。
美しい女性だった。
シルクのように艶やかな黒い髪と朝露のようにピュアに潤んだ瞳が特徴的で、その美しさに気を取られ、ことの不自然さに気づいたのは彼女にわずか30センチまで近づいてからだった。
「あ、あなた誰ですか?」
よく考えたら誰だって関係ない。ただの不法侵入者だ。だがそんなこと今の私には考えも及ばない。
女性はゆっくりと口を開いた。
「私は、コールナの大魔女リリイッシュ。あなたの魂の眩しさに惹かれてここに来てしまった」
言葉の意味がなにひとつ理解できなかったが、クリスタルの鈴のような、透明感のある心地よい声に思わず聞き惚れる。
リリイッシュは、私の両頬を柔らかく滑らかな手で優しく包み、愛おしそうに見つめて言う。
「私は、あなたになりたい」
リリーン……
鈴の音?
途端、世界が反転した。いや、実際はそう感じただけだったかもしれない。とにかく私は理解を超える出来事に反射的に目を閉じた。
目を閉じても感じていた浮遊感は、ほんの数秒の後に消えた。ゆっくり目を開ける。
何も見えない。真っ暗だ。
今度は、ゆっくりと落ちていく感覚が迫ってきた。怖い!
声が、あの女性、リリイッシュの声が聞こえる。
――私は 、おそらく全て手に入れた。富も名声も力も。だけど、心の奥の1番大事なところがいつも欠落していた。それが激しい乾きのようで、私は潤されることを強く望んだのだ。それはなんだろう? それが分からねばこの乾きを癒すことはできない。
それが魂の輝きだったのだと気づいたのは、いつものように水晶で全てを覗いている時だった。
あなたを見つけたのだ。
同じ星の者ではない。同じ宇宙の者でもない。もちろん平行世界の者でもない。全く異なる世界の小さな宇宙の小さな星の小さな国の、なんの力も持たぬ少女だ!
私は、あなたを羨んだ。圧倒的に私より何も持たないあなたを!
いやだからこそだったのかもしれない。私より劣ったあなたが、私が欲してやまないものを持っている。
ほら。それがあるから、他に何も持たなくてもあんなにも幸福で満ち足りているようじゃないか!
気がつけば、あなたの元にいた。
これは運命。
代わりに私が手に入れた全てをあなたにあげるから……。
最初のコメントを投稿しよう!