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隼人は駆け寄り、朱璃と並んで歩く。
「・・・・隼人かぁ?」
隼人は朱璃のいつもの雰囲気が、
違うと感じた。
「朱璃・・・・どうした?
何か、いつもと違うけど」
「あぁ・・・・ちょっとねぇ」と、
朱璃はため息をつくように言う。
「“ちょっとねぇ”。じゃあ、分からないだろう。
幼馴染である、俺にも言えないことかぁ?」
「違うけどさぁ・・・・」
「言ってみろ。言えば、楽になるぞ」と、
隼人は朱璃に微笑み。
朱璃はチラッと、隼人の微笑みを見た。
「進路のことだよ・・・・」
「確か・・・・高校を卒業したら、
就職活動するだっけ?
俺はてっきり、美大とかで進学すると、
思っていただけど」
「本当はねぇ・・・・美大に行きたいよ」
「正太郎さんに話せば、美大に行かせてくれるよ」
「でも・・・・ほら、うちってさぁ。
あたしが小さい時に親が交通事故で死んで。
あたしを小・中・高校に通わせるために、
じっちゃは老後に貯めていた貯金を切り崩して、
お兄ちゃんは春~秋の時期は林檎をやって、
冬は知り合いの車の工場で働いているだよ。
そんな2人に負担をかけたくないから。
地元の会社に勤めと、思っていたんだけど」
隼人は朱璃を幼いころから見ていたので、
朱璃が心境は重々分かっていた。
「そっか・・・・」
「バイトして、学費を貯めたいけど。
お兄ちゃんがそれを許してくれないだよねぇ。
前、お兄ちゃんに“部活するから”って言って、
ハンバーガー屋でバイトしたけど・・・・
バイトして・・・・3週間で、
お兄ちゃんにバレたんだよねぇ」
「あぁ・・・・今だから言えるだけど。
お前が嘘で正太郎さんに言った、
部活の顧問の先生ってさぁ。
正太郎さんの高校の同級生だったらしいぜ」と、
隼人は半笑いで朱璃に真実を伝えた。
隼人から告げられた真実に、朱璃はびっくりした。
「・・・・えっ!?」
「因みに、お前のバイト先の店長は、
正太郎さんの中・高の後輩だったらしい」
「お兄ちゃん・・・・!!
どんだけ・・・・顔が広いの!?」
「まぁ、正太郎さんは近所でも有名な
“鬼シスコン”だからなぁ。
そんな正太郎さんに隠し事は出来ないぜ」
朱璃は正太郎のシスコンぷりに、嫌々になって来た。
「早く、お兄ちゃんにいい人が見つからないかなぁ?
そのままだと・・・・あたしが一生彼氏作れないよ。
もしも、彼氏を作ったら作ったで・・・・
お兄ちゃんなら、その彼氏を殺さしそう」と、
苦笑いする朱璃。
そんな苦笑いする朱璃を、隼人は切なそうに見つめる。
「・・・・そうだなぁ。
正太郎さんが認められる男に・・・・」と、
少し小さな声でつぶやく。
隼人のつぶやきは朱璃には、
微かに聞こえなかった。
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