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すっかり優香の気も紛れて、別れを告げようとしたとき、女性が綾代をたしなめた。
「笑っちゃ悪いですよ、宮司さん。外回りが終わったなら、早く着替えなきゃ」
ぐうじ……宮司……。まさか、神社の責任者? 壮大な勘違いに、優香は恐縮して身を小さくした。
「拝殿へ一緒に行きましょう。お名前、お伺いしていいですか?」
「……安藤優香……です」
綾代の掬い取った縁の糸は、悪縁を断つ願いが成就すれば切れてしまう。会うは別れの始めでも、縁に名付けるとしたら……きっと『一期一会』。
この人なら信じられる。神様にお願いしよう。辛く苦しい感情を水に流したら、もう一度新しい出会いを探しに行けますようにと。
綾代と歩く境内を追い風が吹きぬける。
優香は恨みのない心の傷跡を確かめて、元彼とお別れするための最後の涙を準備した。
<了>
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