【2000字掌編】あなたと会うは、別れの始めでも

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 その男性は、死神に捕らわれたような悲壮な顔をしていた。  屋根ほどの高さがある鳥居をくぐり、手水舎(ちょうずや)でお清めした後のことだ。安藤優香(あんどうゆうか)は一瞬、穢れを見た拒絶感で全身が竦んだ。  平日とあって彼以外の参拝客は見当たらない。痩せた長身に濃紺のスーツといった場違いな格好で、男性はベンチに座っていた。年齢は優香と同じ20代後半。黒い眼はぼんやりと虚ろだ。徹夜後みたいな疲労の溜まった青白い顔をしている。  相当、人生に疲れているんだろうな。優香の尖っていた視線が次第に柔らかくなった。  (ながれ)神社は、『どんな悪縁も切って水に流す』という縁切り神社と評判だ。しかし何かに打ちひしがれた男性は、身動きできないままだ。  自死、の二文字が優香の脳裏をかすめた。
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