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10.死線
宙に浮いている奴がこちらを認識して、降りてくる。豹の模様の肌にネコ科の生き物らしい顔。額には緑の宝石が埋め込まれている。
「何者だ、なかなか面白い雰囲気を持っている。人か?それとも……魔人か?」
「何者でもないさ。お前は攻撃してこないのか?」
「獅子が虫けらを狙うと思うのか?ハハッ、そういう事だ」
そうか。と小さく苛立ちを覚える。剣を再び握るが獣はヘラヘラと笑っている。
「まぁ、今日の俺様は機嫌がいいんだ。ネロのやつも虫の息だろうしな。邪魔をしないでくれたら何でもいい。好きにしろ、ハハハッ」
こんなに舐められて、引き下がる訳にはいかない。俺は内ポケットに手を入れて言った。
「誰、舐めてんだ。ぶっ殺すぞお前」
「ハハハッ、虫が吠えるんじゃねぇよ」
本格的にイラついた俺は引き金を引いた。弾は心臓に向かっていき、肉を削ぐようにして貫通する。しばらく何があったのか分からない顔をしていた獣に痛みが遅れてやってくる。血が吹き出し、胸を抑える。
「何しやがった。お前ぇぇええええ」
右手を構えて呪文を唱えた。
「……落雷魔法っ。ンンー、ハァァアイボルテージ
!」
雷が襲ってくる。凄まじい轟音と共に鋭い痛みが身体を襲う。咄嗟に横へ飛び躱したが僅かにかすった様だった。
くそっ……足の感覚が無い。こうなったら先に殺すしか……弾は後、五発。ルパン三世の次元に憧れて俺はこの4インチS&WのM19を選んだ。ドカドカ打ち込めば良いってもんじゃない。男の渋さが詰まっている銃だった。しかし、そんな事を言っている状況では無いことは起きている。不本意だが、死ぬのはもっと最悪だ。
ドンッ、ドンッ、ドンッと撃ち込む。反動が大きくて一発外したが、肩と胸に命中し、獣は呪文を唱える前に倒れ込む。
「はぁ……はぁ……ざぁまぁみろ」
久しぶりに苦戦を強いられたなぁと手も足を痺れてて動けないが、達成感があった。
こんな無茶な戦い、10年ぶりぐらいだなぁ……売人と揉めて、ヤクザに狙われたとき以来だ。あの時は楽しかったなぁ。ただ喧嘩してれば良かったから。なんとも言えない満足感を得た俺は今はただ眠りたかった。しかし獣は眠らせてはくれなかった。
「ギザマ゛ァア゛ア゛」
化け物か。三発も銃弾を浴びて立つなんて。有り得ない。人間の声とは思えない叫び声と共に雷の咆哮を放ち、迫ってくる。
「ゴロ゛シテ……ヤル゛ナグリコロシテ……イタ゛ミヲ」
もう無理だ。
身体が動かない。
なんだ……誰かが……
獣の後ろに何かが見える……
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