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11.死霊
「闇魔法……黒牙死釜」
もうダメだと思った矢先、呪文が聞こえて、黒い釜のようなものが獣を貫く。
「ブハハハッ、無様だなぁカイルッ。こうなるのを待っていたんだ。貴様の意識が私から逸れるのをなぁ」
「貴様ら……いつ……」
そういうと獣は動かなくなっていた。聞き覚えのある声の主はローブを纏っていたネロといった男だ。こちらへ歩いてきて言う
「残念だ。褒美に生かさせておいても良かったのだが。あんな事をされた後では……ねぇ」
小さく笑い哀れみの目をこちらへ向ける。俺は観念したというジェスチャーをして尋ねる。
「なぜさっき殺せなかった?首を切断したはずだ」
「悪いが私は不死身なんでね」
そう言ってネロは傍に転がっていたローズウッドの使っていた剣を手に取った。
気を伺っていた俺はナイフを取り出して切りつける。
「ああ゛なんでっ」
深くはえぐっていないが片腕を抑えて座り込んでしまった。ネロは獣に比べて、大分弱いようだった。後、何故だか身体が軽い。傷も治っていた様だった。
――もしかしてレベルアップ……ゲームとかだと回復したりするがそのお陰だろうか?
「ステータス」
俺は再度呟いてみる。
やはり、レベルは52まで上がっている。回復はしたが、強くなったという実感はない。
「闇召喚魔法……骸骨兵団!!」
見るとネロが地面に手を置いた周辺が紫色に光り出す。すると地中から無数の骸骨の群れが現れた。
「フハハッ……私を舐めるなよ。魔王軍幹部の力を見せつけてやる……どうした?早く攻撃しろ!」
骨の兵団は足を止め、見ると武器を下ろしているものまでいるでは無いか。ネロは喚いているが反応がない。まさか、威圧感の影響か?一か八かだが俺はネロを指さして言った。
「攻撃しろ」
骨たちはすぐさま武器を取って、攻撃を始める。
「な、何をしている貴様ら……主人は私……ぞ…お前…………わ……やめ……」
「辞めろ」
俺がそう呟くと骨たちの攻撃が止まる。どうやら俺の命令を聞いているようだ。
これは使える。一夜にして俺は大量の兵を手に入れたのだ。
「私は魔王軍幹部だぞ……こんな舐めた……はい……許してください」
そう言ってネロは不服そうだったが服従を誓った。俺もそれを受け入る。
「何か不穏な動きをしたら叩き斬るからな。殺せなくても痛みは感じるんだろ」
「しない、しません……ところでお前は?こんな所で何をしているんだ?魔物の争いに首を突っ込む人間なんて聞いた事も無いぞ……です?」
俺の顔色を伺って、どうにか敬語を使おうとしているらしい。魔王軍幹部というのは本当っぽいな。
「いい、普通に喋れ、気持ち悪い。俺はユーマ。元の世界に戻る方法を探しているんだ……今のところは召喚魔法の使い手を探すってことで旅をしてる」
「元の世界?お前、召喚されてこの世界に来たのか?あの勇者と同じでは無いが!!」
「ああ、勇者って事になってるな」
「かつての敵に仕えるとは、皮肉なものよ……」
そう言ってネロは悲しそうな顔を浮かべる。何かあったのだろうか。
「そういや、名前は?ネロであってるよな?」
「そうだ!我が名はネロ!魔王軍幹部、ネクロマンサーにして不死の肉体を持つもの!そう、我こそが――」
耳をかき鳴らす様な自己紹介である。先程の悲しそうな顔を浮かべていた奴はどこへ行ったのか。
剣を柄から取り出し、夢中で喋っている足元に刺すと悲鳴をあげた。
「またお前……すぐに手を出すのは良くないぞ。主たるもの部下の話をしっかり聞いてだな……」
更に大きな悲鳴が森に響いた。
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