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12.出逢
生まれながらにして私は魔王軍幹部としての地位を保証されていた。幼少期から勉学に励み、ありとあらゆる魔法と幹部としての立ち振る舞いを叩き込まれる。城からは1歩も外に出ず、父母の言いつけを守った。
初めて外に出た日は今でも思い出せる。日が当たる、風が吹く。本を読んで分からなかった経験を糸を紡ぐように回収していく。
成人を機に私は正式に幹部となり、土地を収めるようになった。崇拝し頭を下げる民衆、なんでも命令を聞く部下。気分は良かったが、何か足りないようなものがある気がした。
私は魔王の顔を見た事がない。ただ、役立てと一言。私には従う以外の選択肢は出てこなかった。呪文を永遠と唱え、屍や骨のモンスターを人間の住む街や村へと繰り出す。私は人間を見たことがない。なぜ戦いが起きているのかも、薄い文字が長々と並んだ歴史には感情論しか書かれていなかった。
そして私は呪文を唱える事を辞めた。勇者が攻めてくるというのは幹部会を通じて知っていた。ただ会話がしてみたかった。そちら側の意見を聞いてみたかった。本当に悪者なのかを知りたかった。
しかし、私の領土の大半を奪われた所で目論見は失敗に終わった。勇者軍の進行が止まったのだ。理由は分から無かったが魔王の手のものだろう。落胆して、また私は窓の外を眺める生活が続いた。
しばらくそんな退屈な日々を送っているとある噂が流れてくる。ネロは弱くて幹部としての役割を果たせていないのではないか、というものだった。部下を失い、領地の大半を奪われたのだから当然の噂だった。そこから私に手が伸びるのは分かりきっていた。
雷のカイル……幹部候補のくせに態度が大きくいけ好かないやつだった。大方、私を殺したら幹部の座をくれてやると唆されたのだろう。雷などの光属性とは私の魔法は相性が良くない。城は破壊され、敗走を余儀なくされた。このまま、死んだフリをして第二の人生を歩むのもいいかもしれないな。
そう考えながら走っていると、魔獣の死骸に囲まれて、血塗れの男が立っている。魔物……いや人間なのか? 心臓が波打っているのが伝わってくる。こんなにも緊張するのは初めてかもしれない。コイツが持っている独特の雰囲気のせいか?それともこの出逢いに第二の人生を感じているのか?
下僕にして旅をしてみるのもいい。殺して乗り移って生活するのも良いだろう。迫り来るカイルは頭の中から消えて、私は未来しか見ていなかった。
なんと声をかけようか、やはり下手に出るべきなのだろうか。褒めた方が良いのだろうか。物で釣るなんて方法もあるだろう。雷が轟く中、私は好奇心が疼いて止まらない笑みをローブで隠して話しかけた。
「おーいお前、私は天才なんだが、相性が悪くてだな。見たところ強そうではないか。礼はいくらでもしてやるから助けてくれ」
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