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2.旅立
城を後にし、城下町的な所まで走ると男は息を呑む。見たことも無いような景色が広がっていたからだ。中世ヨーロッパを思わせるような外観に人の姿をした動物。眉を寄せる男に声が飛んでくる。
「とまれっ。その男を捕まえろ!」
振り向くと衛兵が追ってきていた。3人か……撒いた方が楽だな。俺は一目散にレンガ道を駆け抜けて三、四回の右左折を繰り返す。暗い裏道を通り、また新たに大通りらしき所に出た。
商店街だろうか。毒々しい見た目のなんとも歪な物質が売られている。まじまじ眺めていると太い声が聞こえてくる。
「あんちゃん、見ない顔だな。冒険者かい?これはな北部の果物でリンゴって言うんだ。一つどうだい?」
獣が話しかけてきた……言葉は通じるのか?リンゴ……?このピンクの瓢箪みたいなものが?
疑問が脳内を駆けずり回る。とりあえず俺の三倍はあるであろう鼻を触り、そのまま髭を軽く引っ張ってみる。
「どうしたよ? 俺に一目惚れするのはいいが、ここはそういう店じゃないぜ」
ガハハという笑い事と共に手を払い除けられた。
「悪いな。店を間違えちまった」
俺はそう言ってリンゴを手に取り、走って逃げる。
案の定、大声を上げて追ってきた。だがこれがリンゴだと言うのなら是非食べてみたい。好奇心に負けて逃げながらも口に入れてみる。
すっぺぇ……どこか渋みもあるし、口の中が全力で拒否してきた。安い犯罪をしたなぁと少し後悔する。
段々と建物から活気が消えていくのを感じた。モノを売っている感じはしないので民家エリアにでも入ったのだろうか。追っ手は見えないが逃げていても埒があかないと思い、何処かに隠れる事にした。
幸い窓がある家があったので、ナイフの柄の部分で鍵の周辺を割り、鍵を開けて侵入する。
どうやら留守のようだ。部屋は至ってシンプルで違和感を感じたが、深くは考えずにソファに腰掛ける。
――これからどうしたらいいんだ。この街にはもう居られない。まてよ、さっきあの獣が冒険者とか言ってたな。冒険ってことはまだ未開の場所があるって事だ。そうと決まれば簡単だ。未開の地へ向おう。そこで元の世界に戻れる新しい方法があるかもしれない。
俺は家のものを物色し始めた。まずは食料だ。さっきのリンゴを食べた後ではこの世界の食い物には期待していないが、不味くても食えなくないものを探す。ここで俺はさっきの違和感に気づいた。そう、電化製品が何一つないのだ。食料は戸棚に入っており、とてもじゃないが状態が良くない。とてもじゃないが齧る気にもならなかった。
食料は諦めて、台所から包丁を二本拝借する。ショルダーバックを腰に掛け、ローブを羽織る。
防具は……重すぎる。こんなもの付けててよく動けるな。片っ端からモノをかき集める。コインに鍵、使えそうなものはなんでもバックに詰め込んだ。
小さな缶に入っていたのは……食べ物か? 細い繊維状のものが固められて棒状になっている。
――カ〇リーメイトだ。味は薄いがようやく食べれそうなものを見つけた。
俺はそうして街道を颯爽と走っていった。
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