11人が本棚に入れています
本棚に追加
4.敵対
ずっと夢と現実を彷徨っているような感覚だったが日の出と共に目を開いた。
最悪の目覚めだ。地面で寝てたせいか身体のあちこちが痛むし、喉がピンと貼った布のように固まっている。そういえば昨日から水を飲めていない。
ひとまず水探しの度がスタートした……がこれが全く見つかる事は無かった。太陽とも思われる光源が頂上に来た時、俺の苛立ちもピークを迎えた。
悪態ついて石を蹴った先で木でない何かにぶつかる音が聞こえた。
そこには全身緑色のチビがいた。ゴブリンと言われるやつだろうか。すごい剣幕で声をあげているが何を言っているのかさっぱり分からない。
初めて見た生き物にしてはゲームやら何やらで
既視感があるが、何よりも汚い。腕は細くて腹が出ている体型に赤や茶色のニキビのようなブツブツ。体液でネバネバしてそうな緑の皮膚。角張った耳にジャガイモのような不均等な顔。見てて身体が痒くなってくる。
「なんだテメェ!見てて不快なんだ失せろ!」
イライラも溜まっていた俺はそいつに怒鳴り散らした。
途端に手に持っていた棍棒で襲ってくる。
リーチが短い。右足の前蹴りをゴブリンの顔面に食らわせる。無様に吹っ飛んでいく姿を見て、俺はにこやかに微笑んだ。棍棒を奪い取り話しかける。
「水がどこにあるか分かるか?」
言葉は通じていないようだった。敵意を持った顔で睨みつけられる。すかさず顔を棍棒で殴打する。喚いてた奴だったが、繰り返す内に次第に大人しくなりその目は服従を誓っていた。
そこでもう一度ジェスチャーで尋ねてみる。英語分からない外人でも身振り手振りで大体の事は分かんだ。ならばゴブリンでも……きっと。
ゴブリンは奥にあった洞窟を指さす。すると同じようなゴブリンが四体を従えた二回り大きい奴が姿を見せる。さらに汚い。出来れば刃物は使いたくないし、返り血なんてもってのほかだ。そう思うと瞬間的に内ポケットに手を伸ばし――引き金を引いた。
音や周囲の目を気にしないのは気持ちがよかった。
その瞬間にボスゴブリンは倒れた。周りのゴブリン達を困惑した様子で眺めていたが、察したのか震えて俺に命乞いを始めた。
金貨を見せてくるもの、地図を見せてくるもの。違うそうじゃない。ただ俺は水が飲みたいんだ。
必死で喉に手を当て、グラスで飲むジェスチャーをする。
何分もかけて奴らが持ってきたのは酒だった。アルコールの匂いが脳を滾らせる。喉が潤うならなんでもいいとガブ呑みする。酔った俺はゴブリンたちにもお酒を飲むことを許可する。最初は萎縮していたゴブリン達だったが酔いが回るにつれて馬鹿さが露呈する。ズボンを下ろして笑い転げてる。ここまでくれば可愛いもんだ。まさかここで異文化コミュニケーションを学ぶとは。やはり会話は言葉じゃなくて心なんだとゴブリン達に演説をする。間違いないと頷いて拍手するゴブリン達。このままコイツらと旅をするのも悪くないような気がした。
――ダメだった。寝て起きた後の絶望感が凄まじい。朝一番でヨダレ混じりの顔を見た時、俺は棍棒を振りかざす手を止めることは出来なかった。棍棒が柔らかい頭蓋にめり込み、グシャりと音をたてて潰れた。濃い緑の血液が染み出して、生ゴミのような匂いを放つ。
俺は一目散にその場から逃げ出していた。そして誓ったのだ。仲間を作るなら絶対ビジュアル重視にしようと。
最初のコメントを投稿しよう!