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7.戦闘
トロールとの戦闘は非常に呆気ないものだった。でかい鼻に安定していない顔の輪郭。ゴブリンとは比べ物にならない程の体格の良さだが、ローズウッドの剣の前では豆腐のように切れていった。
「ウッディの剣には風の魔法が込められているからあんなに強いんだよ」
とアンナが教えてくれた。よく見ると剣が触れていないのに切れている。
「これでおしまいかな」
ローズウッドは倒れているトロールの首をまるでまな板の上にいるかのようにサラッと切る。相変わらず、顔に似合わない。
「今回も楽な任務だったね」
そう言ってローズウッドは鳩を飛ばす。何度もやり取りしているところを見ると成果を伝えているのだろうか。
「私達見てるだけだったもん……魔法制御の練習したかったのに〜」
「ごめんごめん、少し体を準備運動がてら動かしたくてね」
ローズウッドがそう言いながらストレッチを始める。何もしていないアンリのお腹がなったところでアリシアが声をかけた。
「日もくれてきたしご飯にしましょう」
「ユーマ、アシリアのご飯は凄いんだからね!」
そう言って空のお皿が渡される。正直、この世界の食い物には期待していなかったがアリシアの調理光景には胸が高なった。
魔法だ。空中で肉、野菜を同時に捌き、火や水を操る。ダンスを見ているようだった。ものの数分で皿に山盛りの料理が出来る。
肉の香ばしさとツンと指す酢の香りが食欲をそそる。色とりどりの野菜は悪趣味だが、恐る恐る一口頬張る。
「美味いっ!こんな美味いの初めて食べたよ」
アンリが暖かくほほ笑みかける。アリシアは良かったわとサラッと言うが頬を赤らめている。
「こんなのもう食べれないな」
とポケットからカロリー○イトを見せると三人とも驚きの表情を浮かべる。
「君は……そんなものを食べていたのかい?」
「ああ……拾ったものを一通り齧ったんだがこれが一番口に合ってたからな」
「ユーマ……それ……ペットフードだよ」
口を開けっ放しにして驚いているアンリが言った。信じられないという目線が突き刺さる。俺はいたたまれなくなって手で顔を覆い隠す。少しの沈黙の後、大きな笑い声が聞こえた。笑っていたのはなんとアリシアだった。
「――可笑しい……ははは……ありえない」
それに釣られて皆も笑い出す。笑い声は高らかに山の中に響いていた。
――そんな日々が何日も続いた夜、俺は眠れなかった。一家団欒の様な食事に不自由の無い生活。俺はここに幸せを感じてしまっている。元の世界に帰る道を順調に辿っている。だが、残された家族を考えると……胸を得体の知れない痛みがチクチクと刺す。これは罪悪感なのだろうか。こんな環境にいて、俺は良いのだろうか。楽しんでしまっている。元いた世界のストレスは感じない異世界に心地良さを感じている。
そんな余裕、俺にはないのに。
結論の出ない考えが俺の頭の中を巡り、睡魔を何処かに追いやってしまっていた。
考えに耽っていると隣の寝袋からゴソゴソと音が聞こえた。寝返りをうち、隣に顔を向ける。
――その瞬間、首元に焼けるような鋭い痛みを感じた。
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